“納得しやすさ”と福音の距離 普段着の読書 作家編 第2回 餅月望

『聖者のかけら』
川添愛 著
2023年、新潮文庫
文庫、736頁、1,155円税込

 突然だが、クリスチャンはもっと小説を読むべきだと思う! ……別に昨今の本離れを作家が憂いているわけではない。
 以前、私の小説の師匠がこんなことを教えてくれた。映画やドラマ、アニメなど映像メディアがこれだけ発達している中で小説が売れるのはなぜか? それは小説が「人間の心」を描くのに最も適した媒体だからである。小説の強みは心情描写なのだ、と。
 罪の自覚や救いの確信など、およそクリスチャンにとって大切なことには、心と深く関わりのあるものが多い。だから、良質な小説を読み、心の動きに対する感受性を豊かにすること、心を語る言葉を学び、蓄えることは大切なことなのではないだろうか。

 さて、今回ご紹介するのは川添愛氏の歴史ミステリ「聖者のかけら」である。この小説は良質な冒険ミステリを楽しみながら、ルターの時代(よりは300年ほど遡るが)の空気感と、そこに生きる人々の心に接することができる素晴らしい小説である。
 舞台は13世紀のイタリア。モンテ=ファビオ修道院の若き修道士、ベネディクトは院長から与えられた命令に頭を抱えていた・・・
(次ページでカトリック、プロテスタントの特色にも留意した書評が続きます)