2025年9月4日

碓井真史（新潟青陵大学大学院教授/心理学者） 《連載》世の目 人の目 聖書の目 『タコピーの原罪』。すごいマンガだ。今年全６話がアニメ化され、衝撃的な内容が大きな話題となりつつ、８月に最終回が配信された。物語は、ハッピー星に住むピンク色のかわいいタコ型宇宙人「タコピー」が地球にやってくるところから始まる。明るくポップな絵柄だ。しかし、タイトルにある「原罪」は、冗談でもレトリックでもない。私たちの罪と心の闇を、これでもかと見せつけてくる。 タコピーは純粋だ。小学生の女の子「しずかちゃん」を、不思議なハッピー道具で最高の笑顔にしたいと奮闘する。しかし、しずかちゃんは壮絶ないじめを受けていた。友達も親も先生も、誰も助けてくれない。タコピーが空を飛ぶ道具を出しても、「空なんか飛べてもどうせ何も変わらない」と道具を手に取ることすらしない。そう、これは極めてダークな「ドラえもん」物語だ・・・ （次ページでタコピーとクリスチャンについて、など） 「ドラえもん」では、子どもたちは愛に包まれている。しかし、本作の子どもたちは不幸だ。しずかちゃんはネグレクト。冷酷ないじめっ子少女は家庭崩壊。優秀でまじめな男の子は、教育虐待の被害者だ。タコピーは善意にあふれているが、地球人の実情をまったく理解していなかった。過酷な環境に生きる子ども達から見れば、あまりにも無理解で役立たず。タコピーが語る言葉も、空虚な理想論にすぎない。幸せいっぱいのハッピー星の話をしても、私は行けない、そんな魔法は信じないと無表情に冷たく答えるだけだ。 さて、タコピーのような困難を経験しているクリスチャンもいるだろう。聖書の話も、楽しい教会行事も、伝わらない人には全く伝わらない。物語の中では、悲劇は加速度を増し、救いは見えない。被害者が加害者になり、人を傷つけることでしか笑顔になれず、狂気は深まり、ついに最悪の惨事に至る。登場人物みんなが悪魔的だ。 けれども、登場する親も子も、実はみな純粋なのだ。ただ愛を求めている。純粋だからこそ、深く傷つき絶望する。残酷で無情な言動も、本当は愛への渇望だ。最終話で、ようやく希望は見える。だがそのために、タコピーは視聴者と共に暴力への痛みと恐怖にさらされ、愛されない孤独感を味わい、自分の無力さと原罪性に向き合わなければならなかった。 タコピーの自己犠牲によって、希望の種はまかれる。劣悪な家庭環境という現実は変わらないが、どんな時にも離れずにいてくれたタコピーの記憶が、子どもたちの心を少しずつ変え、悲劇は防がれる。考えてみれば、「ドラえもん」の世界でも、子どもたちを成長させたのは不思議な道具の力ではなかったのだ。 82915 《連載》世の目 人の目 聖書の目

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2025年9月4日

JEA12年ぶりに韓国の福音派と宣教協力調印　異端問題も情報共有

第42回：『タコピーの原罪』が描く、罪と愛

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