2025年9月5日

左上から中村氏、熊田氏、左下から山口氏、濱野氏 全体テーマ「⽇本の宣教について考える —グローバルな⽇本社会におけるキリスト者のアイデンティティ形成Ⅲ」をもとに、日本宣教学会第19回全国研究会（6月28日、西南学院大学）が開かれた。主題講演は既報したが、そのほかの発題などについて抜粋で伝える。 後半の発題者は「日本のキリスト者のアイデンティティーの考察—韓国のキリスト者のアイデンティティーとの比較を通して」（中村敏氏・⽇本伝道福⾳教団牧師、新潟聖書学院教師）、「米国福音教会女性宣教師ローラ・モークの宣教と教育的役割—戦後の史料と動向の分析を中心に」（熊田凡子氏・日本キリスト教協議会/関東学院大学教育学部教授）、「天正少年使節の足跡」（山口道孝氏・カトリック横浜教区司祭）。 最後に全体のグループセッションが開かれ、特別討議のための提題として濱野道雄氏（西南学院大学教授）が話した。 § § 同研究会冒頭で、会長の金本悟氏は、第二バチカン公会議、世界教会協議会、ローザンヌ運動など、世界的な宣教協力の経緯を踏まえ、「カトリック、主流派、福音派が共に研鑽（さん）し、主の祈りを祈り、平和の神が目指した神の国の実現のために、どんな行動ができるか考えたい」と勧めた。 午前の主題講演に続いて、午後は多様な研究発表とディスカッションがあった・・・ （次ページで各発題の概要、「ビビンバのように混ぜこぜ」にして弱点を補う、戦中戦後福音伝道を一貫した宣教師、天正遣欧使節の非ヨーロッパの足跡を踏破、公共神学とアイデンティティーの問い、など約2700字） 「ビビンバのように混ぜこぜ」にして弱点を補う 「日本のキリスト者のアイデンティティーの考察—韓国のキリスト者のアイデンティティーとの比較を通して」と題して、中村敏氏（⽇本伝道福⾳教団牧師、新潟聖書学院教師）が話した。日本と韓国のキリスト教の受容層や受容の特色、神観、宗教観、クリスチャンの在り方を比較した。 「日本ではカトリックは戒律が厳しく、プロテスタントは倫理にうるさい宗教と見られ、尊敬は受けながらも一般大衆から遠ざけられてきた。韓国では、『ネヴィアス方式』と呼ばれる宣教方策を採用したこともよく指摘される。この方式の中心点は、上流階級よりは一般大衆、勤労階級を主な対象とした」と述べた。 日本は「たえず天皇制国家主義という国家体制や国民の在り方と対立し、葛藤」したが、韓国は「本の植民地支配が激しくなっていく中で、キリスト教は国民と苦難を共にし、共に歩む宗教として、国民の信頼を獲得」したとも概観した。 一方で、「大きな宗教集団となった韓国のキリスト教が一種の権力集団として認識され、政治権力との癒着が出てきた」という負の面も指摘する。「たとえ数の上では少なくとも、いや少数だからこそ権力と距離を置き、社会に警鐘をならし、預言者的な役割を果たすことが求められる」と話した。 最後に徐正敏氏の「日本の教会にはいい所もあれば、悪い所もあります。韓国の教会も同じです。それならばビビンバのように混ぜこぜにして、お互いの弱点を補完し得るような状況を作り出すことが出来ればと思う」という言葉を引用しまとめた。 戦中戦後福音伝道を一貫した宣教師 「米国福音教会女性宣教師ローラ・モークの宣教と教育的役割—戦後の史料と動向の分析を中心に」として熊田凡子氏(日本キリスト教協議会/関東学院大学教育学部教授）は、戦前、戦中、戦後一貫して日本の教育宣教に従事した女性宣教師の姿を、書簡などの一次資料から伝えた。 ローラは、1914年、アメリカの福音教会海外伝道局の任命をうけて来日。東京伝道女学校で教鞭をとり、小石川白山教会のバイブル・クラスで男子学生を教えた。戦時中は、抑留所で収容所生活も送る。戦後も46年まで引き続き日本にとどまり、日本聖書神学校創設にかかわった。一時米国帰国後再び来日し、53年まで教会伝道と神学校教育に携わった。 熊田氏は、ローラの宣教活動の特徴として、①来日当初から英語教師として携わった、②個人伝道、③戦時下に母国に帰らず、日本に留まり、日本と米国の隔てを超えた宣教に関わり続けた、を挙げた。 これらの働きから、特に男子学生の中から多くの献身者が育ち、戦後の日本聖書神学校や教会を支えた。「日本の復興を考えるとき、実に何にまさって緊急なことは、福音伝道者養成である」という姿勢が、進駐軍の牧師、抑留所長（戦後に受洗）に浸透し、「人格と生活が全面的に敬服されていた」と指摘した。 天正遣欧使節の非ヨーロッパの足跡を踏破 「天正少年使節の足跡」と題して山口道孝氏（カトリック横浜教区司祭）は、天正遣欧使節がたどった世界各地の街を実際に訪ねた成果を、写真や図を見せながら紹介した。その成果は今年7月に刊行された『図説 天正遣欧使節』（かまくら春秋社）に生かされている。天正遣欧使節は、イエズス会宣教師の発案で、1582年から90年まで、九州のキリシタン大名のもとからローマまで送られた使節。「使節に選ばれた少年たちは、皆大名の家柄。他の修道会より遅れて海外宣教を始めたイエズス会にとって、その成果を示すために、日本から〝プリンス〟を連れていくということが重要だった。ヨーロッパでは、アジアが低く見られがちだったが、極東にも優秀な青年たちがいることを、ヨーロッパに示したかった」と天正遣欧使節の経緯を解説した。 「ヨーロッパ滞在の研究は進んできたが、それ以外にもマカオ（中国）、マラッカ（マレーシア）、コチン、ゴア（インド）、セントヘレナ島（イギリス領、アフリカ南西）からヨーロッパに入った。帰りは、モザンビーグにも寄った。使節の8年の旅のうち、実は非ヨーロッパで過ごした時間の方が長い。私は、多分日本で唯一かもしれないが、これらの場所をすべて訪ねた」と話した。山口氏はインドの大学院で学んでおり、その経験と人脈も生かされた。各地に残る教会でミサをするなどした経験も交えながら、使節やキリスト教宣教師たちの足跡を紹介した。 公共神学とアイデンティティーの問い 最後のグループディスカッションの提題として、濱野道雄氏（西南学院大学教授）は、今回の同研究会のテーマ「グローバルな日本社会におけるキリスト教アイデンティティー形成」を整理。 「コロナ禍において、共同体性とリチュアル（儀式として身体で感じられるもの）を考えさせられた」と言う。一方、コロナ禍前から欧米の若い世代中心に「宗教には属さないが精神性を大切にする（Spiritual But Not Religious）」（SBNR）の傾向があったことにも注目した。 「世界の北半球は、資本主義の進展で、共同体の意義が良くも悪くもが薄れた。共同体性が重視される南半球の教会は勢いを拡大している。欧米や、韓国など、教会がいったん定着したところでは、SBNRに対して、教会がいかに変化できるか模索が続く」と世界的な傾向を語った。 「日本は、教会が定着する前に共同体性が後退している」と分析。「欧米では、伝統的な教会とは異なる『エマージングチャーチ』などの多様な教会の形態が試されている。一方、日本のように、キリスト教のアイデンティティーが社会に根付かないまま、それを取り入れてしまうと、信仰が私事化する恐れがある。日本はどこにもモデルがない状況に直面しているかもしれない。だから日本の神学が必要だ」と述べた。 今回の研究会の発表で、キリストの文化性、少数者性が支持されているとも振り返った。「文化性、少数者性は、悪く言えば『エリート性』や『高尚な趣味』となってしまうが、エリート性でなく、『公共性』として発展させることが可能ではないか。子ども食堂などに可能性がある。奉仕者や予算がなくても、地域行政の予算からできることがある。一方行政との関係には気をつけないといけない。行政の下請けとなるのではなく、距離をもって、少数者的公共性をもつ教会もある。公共の適切な設定のためには、公共の神学、対話に開かれた神学が次の展望を開けるのでないか」と勧めた。 「マジョリティーの欧米のキリスト教ができないことがある。マイノリティーだからこそ、発言できることがある。『アイデンティティー』という概念自体が、ヨーロッパの本質主義、全体性を求める思考理解ではないか。アジア人は本質でなく、実態や参与を重視してきたかもしれない。クィア神学などからの問いかけもある。『これがキリスト教だ』と説明するのとは違う、キリスト教の叙述の仕方が問われている」と話した。 関連記事 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-rasfkwvm41bd9duk/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-kkxvmcfuwfi6r2jj/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-cl2crxjufgd06awf/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-dtfa7mh2qcwgxbe9/

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