2025年9月9日

戦後80年特別連載 前回 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-e9ue3rndxax1nmr7/ ⑨戦争責任の自覚 １９４５年８月15日、日本基督教団の幹部たちは、焼け残った神田錦町の教団事務所でポツダム宣言受諾放送を聞き、承詔必謹の祈祷会を開いた。戦勝を信じ、最後まで戦い抜くつもりであったが、天皇の詔勅には謹んで従うことになった。翌々日には、日本教学の樹立と日本伝道にまい進し、「我らキリスト者の時代が来た」等の軽率な言動をしないことを申し合わせている。各教会の戦後最初の礼拝では、立てられた権威に従うことを教えるローマ書13章が選ばれた例が散見される。 戦後最初の統理指令では、深刻な懺悔が語られるが、それは偶像礼拝や戦争協力を神と人との前に悔い改めるものではなかった・・・ 応答 教会の本質的営みとして 吉澤慎也 （キリスト者学生会［ＫＧＫ］総主事） 大学生になり、戦時下の教会が神社参拝をしていた歴史について初めて学び、衝撃を受けた。戦後50年を迎える頃に「戦争責任」について耳にしたが、より自覚的な当事者意識が芽生えたのは、アジアのキリスト者学生との交わりを通してだったように思う・・・ （次ページで全文） ⑨戦争責任の自覚 １９４５年８月15日、日本基督教団の幹部たちは、焼け残った神田錦町の教団事務所でポツダム宣言受諾放送を聞き、承詔必謹の祈祷会を開いた。戦勝を信じ、最後まで戦い抜くつもりであったが、天皇の詔勅には謹んで従うことになった。翌々日には、日本教学の樹立と日本伝道にまい進し、「我らキリスト者の時代が来た」等の軽率な言動をしないことを申し合わせている。各教会の戦後最初の礼拝では、立てられた権威に従うことを教えるローマ書13章が選ばれた例が散見される。 戦後最初の統理指令では、深刻な懺悔が語られるが、それは偶像礼拝や戦争協力を神と人との前に悔い改めるものではなかった。天皇にお仕えする力が足りずに戦争に敗れてしまったことを懺悔し、新日本建設のための新たな報国を誓うものだった。 我等ハ先ヅ事此ニ到リタルハ畢竟(ひっきょう)我等ノ匪躬(ひきゅう)ノ誠足ラズ報国ノ力乏シキニ因リシコトヲ深刻ニ反省懺悔シ、今後辿ベキ荊棘(けいきょく)ノ道ヲ忍苦精進以テ新日本ノ精神的基礎建設ニ貢献センコトヲ厳カニ誓フベシ 戦中には戦争遂行のため、戦後は新日本建設のため、目標は変わったが「報国」のキリスト教であることには変わりがない。はなはだ晴れ晴れとしない戦後のスタートではあったが、ともかく狂気の時代は終わりを告げた。そして教会にはキリスト教ブームが訪れた。 戦後14年の59年11月、日本キリスト教協議会（ＮＣＣ）による宣教百年記念大会が開催され、千駄ヶ谷体育館での記念式典が盛大に催された。安藤肇はこの行事に疑問を投げかける。「今年は宣教百年になるので、キリスト教界でもいろいろな行事が計画されている。しかし、私にはそれらの行事よりも、もっと大切なことがあるように思えてならない」。安藤はそう言って、『深き淵より―キリスト教の戦争経験』を世に問う。「戦争に協力してきた宗教団体が、戦後の時代に人々の信頼をうることができないのはやむをえないことです。もし宗教団体が、真に国民から信頼されるものになろうとすれば、どうしても戦時中の反省から始めねばならないのではないでしょうか」 宣教百周年において扱われなかった戦時下の教会の罪責は、その後の教会の課題となる。教会は、戦時下において思想弾圧の被害者であり、非協力や内心の抵抗を続けた人々も少なからずいた。戦争への同調を悔いる思いはそれぞれにあり、他人に石を投げることのできる人はいなかった。しかし、その後の歴史を通して、教会の罪責についての本質的な問題に気づくことになる。 戦後22年を経た67年、日本基督教団議長鈴木正久の名で出された「第二次大戦下における日本基督教団の責任についての告白」は、アジアを侵略した戦争への加担を悔い改めるものであった。ドイツの教会闘争からは多くを学んだ。69年から73年まで靖国神社国家護持法案が国会に上程され、反対運動が繰り広げられた。教会においても、戦中の国家的偶像崇拝と無謀な戦争に加担した反省から多くの人々が反対運動に参加した。信教の自由のために政教分離を守ることは、「教会と国家」をめぐる神学的な課題としての理解が深まった。韓国教会との交流によって神社参拝の罪責はより明らかになり、弾圧の被害だけでなく、妥協と挫折を真摯に見つめるホーリネス教団の取り組みも貴重な貢献をした。 戦後40年の85年には「戦後政治の総決算」を標榜する中曽根康弘首相の靖国神社「公式参拝」が行われ、Ａ級戦犯を合祀した靖国神社参拝に対してアジア諸国からの批判が起こる。同年、西ドイツのヴァイツゼッカー大統領は、講演「荒れ野の40年」において「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります」と語り、独日の落差が印象付けられた。 90年、大嘗祭においては天皇の問題性が再認識され、日本基督教会は朝鮮長老教会に対する神社参拝強要についての罪責告白を行った。そして戦後50年を迎えた１９９５年には、戦前からの歴史を有する主流派の教団・教派や明治学院などのキリスト教学校、福音派の諸団体から戦時下の教会の罪責の告白がなされた。韓国の総神大学の歴史資料館にこの告白が展示されているのを見て感銘を受けたことがある。背景には、戦後50年の村山首相談話に至る戦争責任表明の流れがあった。日本の教会は、半世紀をかけて戦争責任の自覚を深めたと言える。 応答 教会の本質的営みとして 吉澤慎也 （キリスト者学生会［ＫＧＫ］総主事） 大学生になり、戦時下の教会が神社参拝をしていた歴史について初めて学び、衝撃を受けた。戦後50年を迎える頃に「戦争責任」について耳にしたが、より自覚的な当事者意識が芽生えたのは、アジアのキリスト者学生との交わりを通してだったように思う。 戦時下の教会の罪責とそれを繰り返さないための戦後の取り組みには、教会全体で考えなければならない本質的な課題が含まれていると思う。その取り組みは、一部の特定層のお決まりのイベントとしてではなく、教会の営みとして次世代に継承されてほしいと願う。そのためには、その本質的な課題を今日の教会が経験している普遍的・日常的な信仰の挑戦と結び付けて理解し、折々に言葉にしていくようなあり方が大切だろう。 教会の若者が一人で考えていても、歴史や社会について深く理解することは難しいものだ。「戦後生まれの私たちに責任があるの？」「今でも韓国の教会に謝罪しなきゃいけないの？」といった自然な疑問を、ためらわずに本音で語り合える交わりが彼らには必要だ。 ある特定の視点や考えを一方的に提示するのではなく、対話を重ねていくような交わりが、年配の人や外国人とも一緒になされていくことで、戦後80年の教会の取り組みは次世代へと引き継がれていくと期待する。 【お知らせ】本連載を加筆し、『戦時下の教会を知ろう』が刊行されました。 関連記事 https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-e9ue3rndxax1nmr7/ https://xn--pckuay0l6a7c1910dfvzb.com/article-vxqn5s6xteczptew/

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どうしても戦時中の反省から始めねばならない 教会の土台を〝共に〟考える⑨

　どうしても戦時中の反省から始めねばならない　教会の土台を〝共に〟考える⑨