<事故被害者に希望の灯><息子の事故死の真相を追究/不起訴から2年、正式起訴へ>< 死者は彼を愛した/人の口を借りて語る>
年間100万件近く発生する交通事故で、亡くなる人は約1万人にものぼる。100万件の内起訴されるのは約1割、しかもその内の9割は略式起訴で終わってしまう。略式起訴では裁判は行われず、最高でも50万円の罰金ですむという。ほとんど真相が明らかにならないまま、遺族は泣き寝入りを強いられる。これが今の日本の交通事故の実態だ。そこに希望の光をともした人がいる。2年前18歳の長男を事故で亡くした児島早苗さん(51)=生駒聖書学院教会会員=。真相解明を求めて独自に事故状況を調査し地検に提出、集めた約2万8千人の署名が後押しし、今年2月19日正式起訴が決まった。■ゲッセマネの祈り■を体験した人の勇気と祈りが不可能を可能にし、長男健仁さんは一粒の麦となって今も全国の被害者遺族に希望を与えている。
事故は2年前の5月15日に起こった。奈良県生駒市の自宅近くで、登校途中だった健仁さんのバイクとヤマト運輸のトラックが衝突したのだ。健仁さんは2週間後意識不明のまま亡くなった。児島さんは「この杯をわたしから過ぎ去らせてください」と祈らずにはいられなかったという。
「亡くなった日、私は1日中、心の中で、なぜ、なぜ、なぜと繰り返していました。葬儀のときある方が、今はなんでやろうと思うけど、必ず先に答えが出るからと言ってくださったことばが心に残りました」
被害者への配慮を欠いた警察の対応に傷つけられていた児島さんを、さらに傷つける書類がヤマト運輸から送られてくる。そこに書かれていたのは被害者であるはずの健仁さんが加害者であるかのような内容だった。愕然とした。
そのころ娘が「バイトする」と言い出した。「どうして?」「お兄ちゃんが事故を起こして相手に迷惑をかけたから、バイトして助ける」相手側とのあまりに対照的なそのことばが児島さんを動かした。
「健仁の通っていた奈良高専のお友達や先生方も心から健仁の回復を祈り、死を悲しんでくださっていました。若い人たちがこれほどきれいな心を見せているのに、大人がうそをついてはいけない。もしこのまま泣き寝入りすれば第二、第三の息子が出てくる。どんなことがあっても真実を究明するために戦おうと思いました」
相手は大企業。怖かった。聖書を抱いて寝た。弁護士に相談し、事故現場の再現をするようアドバイスを受け、健仁さんの友人たちが現場検証に乗り出した。
昨年秋、トラックに過失があると結論づけたA4判20ページ余りの報告書を奈良地検に提出することができた。事故の年の12月から始めた、生駒署に遺族への情報公開、威圧的で尊大な姿勢の改善を、奈良地検に厳格な捜査と再発防止のためにも起訴してほしいと訴えた約2万8千人分の署名も提出した。今年2月19日、奈良地検は事故を起こしたヤマト運輸生駒営業所の運転手を業務上過失致死罪で在宅起訴した。
児島さんらの運動はマスコミに大きく取り上げられ、各地の被害者遺族とのネットワークに発展していった。
昨年9月には「生命のメッセージ展」を生駒市で開催、「理不尽に生命を奪われし者たちへのレクイエム」と題して、事故や犯罪、いじめなどで亡くなった人たちの遺品や人型を展示した。このことを通して児島さんは、決して「死人に口なし」ではない、「死者は死者を愛した人たちの口を借りて語る」ことを実感した。
「皆さんに助けられてここまできました。人を恐れず主に信頼していこう、神のことばほど正しくて真実なものはないことをしっかり見つめていたら、少しずつでも歩いていけます。私の最終目標はイエス様の仕事をすること。今は訓練です。ていねいに訓練を受けていたら、必ずイエス様の務めができるようになると思うのです」
児島さんは「ケントは今も私たちの中に生きる」会を結成し、交通事故遺族が刑事裁判で事故の真相を究明できる機会の保障と情報公開を求める署名を集めて森山眞弓法務大臣に、さらに加害者の勤務していたヤマト運輸株式会社が任意保険に加入していなかったことについて調査、指導を求める署名を扇千景国土交通大臣に提出する。署名はインターネットでも受け付けている。
◆連絡先=奈良県生駒市西松ヶ丘10ノ7、TEL090・8740・3213、インターネットによる署名=http://mem bers.tripod.co.jp/atti0416
