戦後の教会はどうだったのか?① マイノリティー教会の80年と現在 3人に聞く

『在日コリアン教会の戦後』評・佐藤信行氏(在日大韓基督教会 在日韓国人問題研究所 顧問)

 今年8月、私たちは日本の敗戦、朝鮮の解放から80年を迎える。いま日本に暮らす在日コリアンは、日本の植民地支配に起因する民族的マイノリティーであり、すでに在日五世が生まれている。

さらに1980年代以降、韓国をはじめ中国、フィリピンなどから移住労働者、国際結婚移住者、留学生が急増し、外国人住民の数は現在380万人以上に上る。だが、国連の人種差別撤廃委員会が指摘するように、在日コリアンや移民二世が住居、教育、医療、雇用の機会を制限され「染みついた社会的差別」にいまだ直面している(2018年総括所見)。

それにもかかわらず、旧植民地出身者・移民・難民を排斥する言説が、インターネット上にあふれ選挙演説で公然と唱えられる。これが、日本敗戦80年後の現実である。

 本書『在日コリアン教会の戦後』は、植民地時代から民族分断時代下の歴史的過程を前史として、80年代以降に急増したニューカマー韓国人牧師・信徒の参与によって在日コリアン教会がどのように再編(継承/変容)されたのか、教会指導層の営為に焦点を合わせながら分析していく。

先行研究を踏まえながら、おもに在日大韓基督教会(KCCJ)大阪教会、日韓双方のホーリネス教団に所属する広島第一教会、単立教会の東京福音教会を対象に、教団史・教会史や教会発行文書などを駆使しながら、牧師・長老・信徒のインタビュー記録が随所に活用されている。

 本書は第1章と第3章にかけて、解放後の在日コリアン社会の形成と変容を概説しながら在日コリアン教会の歴史的展開を分析し、70~80年代、在日コリアン教会において在日一世から二世への世代交代が進むなかで、とりわけKCCJ青年たちから、教会の体制批判に加え、信仰とエスニシティーを結合する「在日キリスト者」論が提起されたが、教団・教会の根本的な変革を促すには至らず、「在日二世のエスニック・チャーチとして移行できなかった」と指摘する。

 その一方、80年代以降、韓国人ニューカマー牧師・信徒の教会参与が急激に広がり、KCCJの各教会も、また在日ホーリネス教会も東京福音教会も「教会内の多様化」が進む中で、一時期、新旧コリアンが日常的に接する「稀有な場」としてあったこと、しかし、いずれの教会も「新旧コリアンの対立の顕在化/潜在化」という難問に直面せざるを得なかったことなどが、本書第4章以下では詳述されていく。

 そのなかでKCCJ大阪教会が2006年から始めた老人大学を、韓国人ニューカマー女性たちの熱心な奉仕を前提に、地域の在日コリアンに向けた「エスニック・チャーチとしての機能」を評価し、「在日コリアンに内在するマイノリティという立場性を抽出し、他集団にもその範囲を拡張させようとする」先駆的事例としている。

 新進気鋭の宗教社会学研究者である荻翔一による本書は、客観的、時には冷徹な結論を私たちに導いてくれるが、日本人およびコリアン、とりわけキリスト者が、敗戦後/解放後80年の現在を考える上で参照すべき労作である。

『在日コリアン教会の戦後 再編されるエスニック・チャーチ』荻翔一著、春風社、5,830円税込、A5判

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