
本書の副題が重要である。「戦後八十年のキリスト教平和学入門」。本書は単に「平和」を訴えるだけの本ではない。戦後八十年目のこの年に、「キリスト教平和学」という視点を身につけるための書物なのである。
この場合の「平和」の対義語は「戦争」ではない。「暴力」である。神がお与えになった命を損なう行為である。そして、この「暴力」には〝直接的暴力〟と〝構造的暴力〟がある。前者は言うまでもなく戦争や紛争など人に直接危害を加えることであり、後者は経済格差・差別・人権侵害など社会の中に構造化されている間接的暴力を指す。
このような「平和学」の理解に立ち、本書では12の章にわたって、私たちキリスト者がこの世に「平和をつくる」ための極めて多角的な視点を提供する。〝正しい戦争〟とは何かという神学的問題から、現代のイスラエル・パレスチナ戦争まで。過去の戦争の記憶やキリスト教会の戦争責任から、平和教育や平和的生存権の問題まで。その守備範囲は広い。聖書の「平和」概念そのものが多角的だからである。
特徴的なのは、しばしば、著者が現場に即して「平和」を考えようとしている点である。沖縄の戦跡や米軍基地で、横浜の英連邦戦没捕虜の墓地で、唯一の戦争被爆地ヒロシマ・ナガサキで、植民地支配をした韓国で、そして、人種差別の惨状色濃く残る南アフリカの黒人孤児たちの施設で…。
ちょうど平和の主であるイエスが、単に山上で「平和をつくる者は幸い」(マタイ5・9)と教えられただけでなく、山から降りて人々の苦しみと悲しみの現場で「平和」をつくり出してゆかれたように。「キリスト教平和学」とは、実践のための学なのである。
著者がなぜ「平和学」という学問分野を志したのか。その理由の一端は、キリスト者であり後に牧師となられたおじい様の壮絶な戦場体験がある(第7章参照)。人間の罪の恐ろしさが決して抽象的なものではないことを体験的に知っている者は、「平和」をも決して抽象的議論で終わってはいけないことを知っている。
「暴力」は(堕落した最初の家庭から始まったように)最も身近な場から生まれ、やがて社会へと広がっていく。その暴力の極みが十字架である。そうであれば、「平和をつくる」営みもまた、十字架の愛を知るキリスト者たちの生活の場から始まるのがふさわしい。
本書は、そのような実践へと私たちを促さずにおれない力をもっている。
(評・吉田隆=神戸改革派神学校校長)
『今、「平和」とは何か 戦後八十年のキリスト教平和学入門』
豊川慎著、いのちのことば社、1,100円税込、四六判
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