本書の著者は2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ時に米国に滞在し、イラク戦争時に米国の神学校で学んでいました。日本の教会で育った彼は「戦争反対の平和主義者」であることが信仰者として当然と思っていましたが、米国の多くの信仰者が「正義の戦争」を肯定する様子にショックを受けました。評者も1980年代の東西冷戦末期に西ドイツで働いていた時、多くのドイツの信仰者が米国との同盟関係を重視し、当時あった徴兵制を当然のように受け止めていることに驚いた経験があります。安全と平和に関する意識の違いが、置かれた国の状況によって驚くほど大きいのが現実です。
そこで著者は、日本の教会の平和主義も米国の教会の「正義の戦争」論も、それぞれの聖書的根拠があることを未信者の方を意識して分かりやすく明快に解説します。そこで、信仰とは一人ひとりの生き方の現れなので、同じ聖書を読みながら異なった見解が生まれるのは、当然のあるべき姿であるという基本に立ち返ります。同時に、一人ひとりが異なった考え方に耳を傾け、神との対話の中で、「平和を作る者」へと変えられるための道を説いています。
「バカな平和主義者」とは、相手に善意が通じず、自分や隣人が殺されることもあり得るとの覚悟もなしに非暴力を訴えることの安易さを、「独りよがりな正義の味方」とは、神と他者にとっての正義を理解しようとしない姿勢を指摘したことばと言えましょう。
日本でも安保法案や憲法改正を巡って、感情的な非難合戦が繰り返されがちですが、本書はそれぞれの立場の人に、互いの意見に耳を傾け合うきっかけを与えることでしょう。これは、異なった見解の人を、「バカ」とか「独りよがり」と非難せずにすむための知恵の書でもあります。憲法九条を世界の宝と見る人にも、また自衛隊の存在を憲法に明記すべきという改憲論者の方にとっても、「なるほど!」とうなずける、稀有な信仰解説書と言えましょう。
(評・髙橋秀典=立川福音自由教会牧師)
いのちのことば社 1,512円税込 四六判

