家族にも友人にも同僚にも言えない・・・そんな悩みに耳を傾けてきた、「いのちの電話」の設立から55年となる。日本における電話相談支援の先駆けで、幅広い市民がかかわっているが、設立当初から多くのキリスト者が隣人愛の精神で支えてきた。しかし現在、相談者の高齢化によるリタイア、人手不足が課題だ。現在2026年(第60期)相談員を募集している(書類提出期限は4月30日必着、記事下部参照)。

目次
「隣人愛の場」
教会のネットワークも生かされ
いのちの電話の相談員とはどんな存在だろうか。この働きの初期を知る人から話を聞くことができた。
初代相談員の一人、後庵正治(ごあん・まさはる)さんは82歳。1970年から2014年まで40年以上にわたり相談員を務めた。現在も、定期的に相談員たちの思いを聞く「ホリデー・サポート」の働きで支える。相談員自身もため込んだ思いを吐き出す必要があるからだ。「いのちの電話の働きは、良きサマリア人のように隣人を愛する働き。クリスチャンこそ、いのちの電話の精神をより分かるはず。ぜひ関わってほしい」と勧める。
後庵さんは、20歳で結核にかかり、6人から輸血を受けた。療養所で日々人が亡くなる状況を見て、人生の運命を思った。同じく療養をしていた牧師との出会いを通して「神から与えられたいのち」という思いを強めた。
その後、後庵さんは、社会福祉の学びをしながら会社勤めをし、カトリック教会に通った。1970年11月にカトリック新聞を通して、「いのちの電話」立ち上げを知った。研修には、教会を会場に、キリスト教関係者、市民が400人以上集まった。一般のメディアも注目した。「みな寝食を忘れてこの働きをした。すごい熱量を感じた」と振り返る。
電話相談は71年10月1日午前0時に始まった。当番は5人、じゃんけんで、後庵さんが最初の電話をとった。最初はお祝いの電話だったが、次の電話が最初の相談となった。5歳の子からで「お父さんが自転車を買ってくれない」という相談だった。初日は和やかな相談だったものの、初年度の相談件数は3万件を超した。一日約100件の計算になる。
高度成長期の東京は「心がカサカサしていて、電車に乗ってもお年寄りに席を譲るということが少なくなった」と後庵さんは振り返る。「日本全体で、核家族化が進み、隣人への関心も少なくなっていました」
そんな中、後庵さんは73年8月、各地にいのちの電話の働きを広げたいと、会社を辞め、2週間関西方面で活動紹介のキャラバン活動をした。「同じくいのちの電話の講習を受けていた妻は許してくれたが、今思えば結婚2年目で申し訳なかった」と話す。
まず近江兄弟社をめざし、名古屋やこの年始まった関西いのちの電話を含め、鳥取、島根、下関、福岡、北九州、長崎、熊本、鹿児島、などで、教会を会場に活動報告をした。訪問した地では、数年後に、いのちの電話が立ち上がった。
「イエス様がおっしゃっているように、自分を愛するように、人々、他の人も愛しなさい、という思いを持つ人が多かったのだろう。活動紹介を聞いた人たちの中からそれぞれ立ち上がったようだ。わたしの働きも一助になったとしたら、うれしい」と話す。
翌年に東北方面を回ろうという思いもあったが、新しい家族の誕生で断念した。
人格対人格の対話
時代ごとに悩みの変遷も
電話相談では、深夜相談(22時~翌朝8時)を中心に担った。12月31日の相談も担当。「その年最後の吹き溜まりというか、悲しい話が多かった」という。「生きていても仕方がない」「死ぬために山に来ている…」。話す中で、外が明るみ正月の朝を迎える。じっくり話を聴く中で、相手の気持ちが楽になっていくのを感じる経験もした。「ベストセラー作家の山本七平さんもいのちの電話を取り上げて、人格対人格の対話をしている、と言ってくれた。人間同士が対等に向き合うところにいのちの電話があります」
時代ごとの変化も感じた。「70年代は、生きることの意味への相談が多かった。80年代は経済の問題が多かった。2000年を過ぎてからは、精神障害やパワハラに関する相談が増えた印象です」
「自分の言動で部下が出社拒否したが納得できない」という相談も受けた。ほかにも表に出せない悩みは多く寄せられる。「人々の悩みが社会で表面化する前に、私たちは、そのような悩みを聴いていた、ということが多いのです」
長年かかわる中で、悩みを聞く姿勢も変わった。「自分を大切にしないと相手に向き合えない。70年代は気負っていたが、80年代に入って、『何もできない』ということに気づいた。そのとたんに楽になった。神様に任せて、自分がやるだけのことをやらせていただくのです」
いのちの電話の悩み・・・
/「第三の居場所」としての可能性
現在のいのちの電話の課題について、東京いのちの電話事務局の郡山直さんは、「毎年相談員を育てて、研修をして、認定、ということを繰り返しており、それなりに相談員は増えているが、現相談員が高齢化で辞めていく方が多く、実質なかなか増えない。電話は鳴りやまないが、受信件数を増やすには相談員を増やすしかない」と悩みを語った。
「クリスチャンの方なら、いのちの電話の精神を理解いただけるのではと思う。相談を受けると同時に、自分自身を問う、客観的に見ることになる。よく職場でも、家庭でもない『第三の居場所』(サードプレース)という言い方があるが、いのちの電話も第三の居場所になり得る。ここは非常にディープな話を聴き、聴く自分自身も『これでいいのか?』と思うようになる。そして研修などを通して、仲間たちと自分自身の内面を分かち合い、互いにフィードバックできる。そこにこの場所の価値がある」
後庵さんも「生の声を聴けるし、互いに聴き合える。今起きていることに、常に新鮮な対応が問われる。それを学び合える貴重な、出会いの場だと感じる。私にとっては、いのちの電話は、第二の家族のような場所。もう55年も来ているのだから。そして背後に、天国にいった先輩たちが『ちゃんとやってるか』と言う声がするように思える。だからぜひクリスチャンの皆さんは、この働きに関わってほしい」
後庵さんは、手術をして、体力の衰えを感じたことを機に、2014年に電話相談そのものは引退したが、現在も定期的に相談員を支える働きをしている。今回「いのちの電話について話すときは違う」と言葉にいっそう熱が入っていた。いのちの電話の経験をもとに、NPO法人「パートナーシップ アンド リスニング アソシエーション」を立ち上げ、各地で傾聴講座を開いている。自己開発研究所主幹
厚生労働省によると、昨年の日本の自殺者数は、暫定値で、統計開始(1978年)以降初めて2万人以下となった。その中で、小中高生の自殺者数は、その統計がある80年以降で最多となった。
「東京いのちの電話」への相談者は、全体として30~60代が多いが、電話相談、インターネット相談(各地いのちの電話と共同)などで10~20代を含めた幅広い層とかかわっている。直近の報告書「2024年度事業報告」では、「20・30代の相談者が、危機に直面した時に、『今ここで』の救いを、いのちの電話に求めている可能性がある」と分析する。
「東京いのちの電話」では、2026年度(60期)相談員を募集している。書類提出期限は4月30日必着。書類は同ホームページからダウンロードできる。提出書類は申込書、自己形成史(3000~4000字)、志望動機(800 字程度)。書類審査、面接・適性検査をへて、合格すれば、10月から毎週土曜の研修を一年間受講の後、月2回の電話担当(年数回深夜担当)をし、継続研修などのサポートがある。詳細は同ホームページで。
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