【書評】「個の物語」に響く「もっと大きな物語」を語ろう 『物語で伝える信仰』評・大嶋重徳

 今、私は都内の大学でキリスト教概論を教えている。授業終わりに提出される学生たちのリアクションペーパーを読むと、そこに透けて見えるのが彼らの生きてきたメタナラティブ(大きな物語)だ。流行りのアニメの世界観に染まっている者にとって「生まれ変わり」「輪廻転生」の世界観はなんの違和感なく受け止められ、祖父母に愛された学生は「ご先祖様が守ってくれている」というメタナラティブを生きている。

「神など人間の願望の投影だ」という言葉に大きくうなずく学生に、私がキリスト教の素晴らしさを理路整然と語ろうと、このメタナラティブは崩れる気配が見えない。彼らの「個の物語」に響き、彼らの人生の力強い助けとなるもっと大きな物語を語らなければ、彼らの心は神へと向いていかない。


 アリスター・マクグラスの『物語で伝える信仰』は、現代社会でキリスト教信仰を「論理的な正しさ」だけで説明することの限界を語る。真理の証明や相手を論破するよりも、聖書の大きな救済の物語と読者の人生が一つになっていく時、人の心は開かれ、すでに自分を覆いつくしていた大きな物語に身を委ねることが出来る。


 マクグラスは伝道がしたいのだ。非キリスト教的世界観を弁証論という仕方で、突破したい。さらには世界が聖書の大きな物語のなかに生きる時、はっきりと人生の意味が与えられ、自分もまた世界に影響を及ぼしうる世界への参画の仕方があるということを、「神などいない」という世界に向かって語りたいのだ。


 この本の出版翻訳の背景には、退屈な釈義の発表か、難しい教理の解説に陥っている教会の説教を打開したい思いも感じる。また泣けるエピソードトークと熱い口調だけで、聖書そのものが語られていない怒りも伝わってくる。私が16歳の時に信仰を持ち、救いに喜びに溢れていた時も同じ怒りと失望を持っていた。しかし自分が説教者なってから、神学校で勧められる教科書は20世紀初頭の本ばかりですでにポストモダンと呼ばれる時代を生きてきた自分に「届く」聖書学、組織神学、説教学の「ことば」にほとんど出会えないまま卒業してしまった(一部決定的な出会いはもちろんあった)。


 この本は現代において、いかに信仰の魅力を伝えるかに悩むキリスト者や牧師に非常に実践的だ。また「日本」というメタナラティブに生きる人にどのように福音を伝えていくことが効果的なのかをそもそものところから考え直せるチャンスを与えてくれる。この本は「自分の信仰を届く言葉で表現したい」と願うすべてのクリスチャンにとって読まれるべき書物です。
(評・大嶋重徳=鳩ヶ谷福音自由教会会牧師)

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