映画「海は燃えている イタリア最南端の小さな島」--難民の遭難とのどかな暮らしが交差する島
紛争、飢餓などでやむなく母国を出航しヨーロッパを目指して地中海を航行する難民ボート。粗末な一隻の船に数十人、数百人がすし詰め状態に押し込められ船内で病死する者も少なくない。難破すれば緊急無線を受信した近隣の島の港を出動した救助船に保護されれば運がよいほうだ。一方で、そのような緊迫した状況とはかかわりないかのように一般の島民は、のどかな日常の暮らしを送っている。少し視線を転じれば救護所に収容された難民や死亡した犠牲者たちの惨状が日々繰り返し起きている。難民船の遭難とのどかな暮らしが交差する小さな島。だが、日常のなかで互いに視線をかわし意識が交わることはない。これは小さな島でのことにとどまらず、私たちの身近に起きている出来事そのものを伝えている。
【あらすじ】
シチリア島から南西へ約220km、チュニジアの海岸から東へ113kmに位置する地中海のイタリア領最南端のランペドゥーサ島。面積は20.2平方kmの小さな島に約5,500人の住民が暮らしている。「船が浮いて見える」と形容されるほど、透明度の高いターコイズブルーの美しい海で有名な観光と漁業の島。12歳のサムエレ少年は、小枝をY字に加工してゴムひもを取り付けた手製のパチンコで小鳥を狙い撃ちし、将来は船に乗る仕事つけるよう、船酔い克服トレーニングに励んでいる。
のどかなランペドゥーサ島にはもう一つの表情がある。北アフリカ地方からリビアの港を経由してヨーロッパをめざすボートピープルが粗末な船で地中海を航行し、遭難救助を求める緊急無線が昼夜ひっきりなしに受信する。救助され年間数万人にも上る。人口をはるかに超えるボートピープルの漂着に島民は騒ぎに巻き込まれているのかと思いがちだが、のどかな暮らしに変化はない。マリアおばさんは洗濯物のアイロンかけをしながらラジオ局にお気に入りの曲「Fuocoammare」(海の炎)をリクエストする。リクエスト曲がかかる前に難民が遭難して女性や子どもが大勢犠牲になったニュースが流れると、マリアおばさんは「なんてひどいこと」と同情する。
サムエレ少年がピエトロ・バルトロ医師に目の検査を受けている。左目が弱視のためしばらく矯正メガネをかけることになった。ピエトロ・バルトロ医師は、島に常駐してるたった一人の医師だ。遭難した難民船の死者や病人を診察するのもピエトロ・バルトロ医師の仕事。パソコンに収められているすし詰め状態で沈没しそうな難民船の画像を見ながら、「この船には850人が乗っていた。1等客室は一人1,500ドル、中段2等で1,000ドル、船倉の3等で800ドル」と乗船料金などを一人語りのようにつぶやく。「こうした人々を救うのは、すべての人間の務めだ」の言葉が重い。
サムエレ少年の矯正メガネの効果が少しづつ現れてきた。学校の友達と放課後、ボートを漕いでいると港にたくさんの救助船が停泊している。「見えてるのか」と問う友達に「よく見えているけど、あと少し。もうほんの少しなんだ」と答えるサムエレ少年…。
【みどころ・エピソード】
ランペドゥーサ島の難民検問所の定員は858人だが、2000人以上の難民を収容することもある。検問所に保護されると、まず番号札を持ち顔写真が撮られる。人格性を表す氏名はまだ記録されない。検問の間、手持無沙汰の者たちが、自分の国の言葉でやけくそのように歌ったり、リビアやソマリアの出身者ごとに分かれてサッカーゲームに興じる者たち…。ここに漂着した人生の物語は語られないが、呆然とする女性の表情や少しの時間でもサッカーに興じる人たちの在り様がより深いものを伝えている。
ロージ監督は、当初10分程度の映画を撮るためランペドゥーサ島に来たが、この美しくのどかな島と命を懸けて海を渡って来る難民たちを結ぶピエトロ・バルトロ医師と出会ったことで、ニュース報道などでは伝わらない視点を衝かれた。ランペドゥーサ島に1年半滞在し、島民や難民の日常と出来事を美しい情景とともに詩的な映像で語り掛け、誰かを問い詰めるような展開は見せていない。ごく自然に島民の暮らしと難民の状況を見つけ、自分にできることに努める医師と少年。“愛”の反対は“無関心”でいることと語ったマザー・テレサの言葉が耳の奥に聞こえてくる。 【遠山清一】
監督:ジャンフランコ・ロージ 2016年/イタリア=フランス/イタリア語/114分/ドキュメンタリー/原題:Fuocoammare 配給:ビターズ・エンド 2017年2月11日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.bitters.co.jp/umi/
Facebook https://www.facebook.com/umiwamoeteiru/
*AWARD*
2016年:第66回ベルリン国際映画祭金熊賞<グランプリ>受賞。 2017年:アカデミー賞外国映画賞イタリア代表作品。