MOVIE「ただいま-それぞれの居場所-」--誰にも帰るべきホームがある
介護保険制度が施行されて10年。介護サービスの事業所も増え、近年、介護福祉が注目されるようになった。しかし話題は低賃金や人手不足、資金不足の問題ばかり。介護の実態はどれほど知られているだろうか。
ドキュメンタリー映画「ただいま それぞれの居場所」は、デイやステイサービスを提供する4つの介護施設を追う。介護現場の最前線で働くスタッフと入所者の日常から介護の今が見えてくる。
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大宮一浩監督は、15年前に福祉施設「元気な亀さん」を撮ったことが介護現場との最初の出合いだった。「介護そのものより家族のあり方やコミュニケーションにもともと興味がありました。障害者も高齢者も子どもも一つ屋根の下で過ごす、そこでの表情は家族との空間とは違う。こんな世界があるのか」と驚いたという。
ただ、当時は10年もすればそんな新しいコミュニケーションが当たり前になると思っていたという。99年に続編を撮り、さらに10年が経過したが、「ほとんど変わっていない」現実があった。しかし、制度の矛盾や問題点を訴えるのではなく、「介護を通して人と人との関係を見つめること」に焦点を合わせた。「撮影した施設は20、30代の若いスタッフが働いていました。こんな風に奮闘して生き生き働く若者がいる。彼らは、大手を振って通りを歩くタイプではなく、悩み、つまずきながら生きてきたかもしれない。でも、だからこそ弱い人たちと寄り添えるのでは。困っているなら手を差し伸べる。てらいなくそれができる場が介護施設にはあると感じました」
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映画の中では、言葉がうまく出なかったり、自分の状況を把握するのが苦手な人など様々な人が登場する。急に散歩に出たり、暴力をふるうこともあり、「大変なこと」もある。しかし、介護スタッフらはその「大変」を「だめなこと」とは捉えない。誰でも浮き沈みがあるように、いろいろなことが起こるのは当然で、介護スタッフの役割はそういう日常と付き合うこと。「家」のようなつくりの施設からそんな雰囲気が漂う。「撮影中、クルーが来ても『お客さんだ。お茶でもどうぞ』くらいに自然に気軽に接してくれた」と話す。よそよそしさがない理由を「病院は退院がゴール。施設のスタッフは『もうここが終の棲家になってもいい』と考えているのでは」と大宮監督は語る。確かに利用者の表情は、家にいるように寛いだ顔をしている。
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「映画の企画段階で『居場所』がキーワードにありました。『ただいま』は家以外の場所でなかなか出ない言葉。その前には『いってらっしゃい』があると思います。施設が家そのものになることもあるのだと思います」
映画完成後、父親が倒れ、監督自身も介護が身近な問題になった。「『ただいま』を撮り、家族の間で交わすその言葉がとても意識されています」 【奥山みどり】
監督・大宮浩一、プロデューサー・安岡卓治、配給・安岡フィルムズ、4月17日より東京・中野区のポレポレ中野にてロードショーほか全国順次公開。