稼働しなかったカルカー高速増殖原型炉の冷却塔は遊園施設として再利用されている ©Stefanescu/Sattel/Credofilm
稼働しなかったカルカー高速増殖原型炉の冷却塔は遊園施設として再利用されている ©Stefanescu/Sattel/Credofilm

25年前のチェリノブイリをしのぐほどの福島原子力発電所の原子炉爆発事故。3月に起きて以降、いまも放射能物質汚染への怖れと警戒が高まっている。原発事故のさ中にある日本だが、原子力発電所とはそもそも何なのか、原発廃炉へのプロセスはどのように進められていくのか。2001年に脱原発への報告を決定し、今年6月には10年以内に国内すべての原発の停止を決定したドイツの原発施設の日常を追ったドキュメンタリー映画だ。

冒頭、タイトルバックに映し出される放射線の飛跡。かつては修道院の敷地だった緑の森と田園風景の中に立つ自然風冷却塔とグローデン原発。そして、施設内のコントロールパネルから多様な設備をつなぐ配管の複雑なレイアウトは妙に美しい。

一つの原発だけではない。稼働中の原発は、そこで働く人たちの仕事や終業後の被ばく検査。原子炉の燃料棒交換の様子。敷地内の設備では原発が攻撃された時の煙幕発生設備も紹介される。また、廃炉作業中の原発で重装な防護服で放射能汚染された配管や設備の解体作業。地下600mの岩盤を掘削して造られた放射能廃棄物貯蔵庫も映像に収められていく。また、建設されたものの稼働しなかった原発施設は、遊園地として再利用されている。

一つひとつの原発施設の仕事と設備が、淡々と映し出されていく。画面をつないでいく説明的なナレーションは一切ない。ただ、原発の広報担当者や原発の平和利用を促進する役割を担うIAEAの担当者らが、テロップで流れる解説や質問に答えたりコメントをつけているだけ。峻厳なまでに原発がどのようなところなのか。そこで行われている作業や管理体制はどのように機能しているのか。また、原発を廃炉するといううことは、どれほどのプロセスと費用、そして危険が伴うものなのかを映像を中心に、観るものにさらけ出していく。

原子炉を真上から撮影。宇宙を覗き見るような圧倒される感覚とアートフルな映像美 ©Stefanescu/Sattel/Credofilm
原子炉を真上から撮影。宇宙を覗き見るような圧倒される感覚とアートフルな映像美 ©Stefanescu/Sattel/Credofilm

それは、ザッテン監督が当初から抱いていた目的なのだ。「ドイツでも原発の問題は、とても感情的でイデオロギー的な議論がなされてきた。01年に当時の政権が脱原発の方策を決定した後も、様々な圧力があった。だが、議論をしている人たち、ひょっとしたら反対運動をしている人たちも原発がいったい何なのか、そこではどのような作業が行われていて、放射性廃棄物の処分場とはどのような所なのか。イメージだけではなく、それらを見せたい。まず、映像と音と感覚で原発を知ってほしいのがこの作品を作った大きな目的です。ですから中立的な立場で制作しました」と語っていた。

この映画については、「何か主張するような手法は使いたくありませんでした。私が重視しているのは、観客は見ることによって各自が判断できるということです。見て判断することで、知識が広げられていくと思います。例えば、この作品では、原子力のとてつもないテクノロジーがあって、それがどういうものなのか。しかも、それは最新のものではなく、過去にあった未来の映像になるというか、過去から見た未来の映像と言うことがお分かりいただけると思います。かつて原発は、未来の象徴でした。もちろん危険なものであることも分かっていて、人間は世界中に広めてきました。そこには、テクノロジーに対する信仰というか、危険な原子力であってもテクノロジーですべて制御・管理下(アンダー・コントロール)に置いて支配できるという思い上がりのようなあったように思います」とも語っていた。

ザッテン監督が3年間撮り続け、直視してきた原発。これを見て、原発をどのように理解し、これからどのように対処していくのか。それは、観るもの一人ひとりの思考と判断に委ねられている。   【遠山清一】

監督:フォルカー・ザッテル 2011年/ドイツ/98分/原題:Unter Kontrolle 配給:ダゲレオ出版 11月12日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

公式サイト http://www.imageforum.co.jp/control/