アルジェリアで暮らす母親を訪ねたコルムリ。 ©Claudio Iannone
アルジェリアで暮らす母親を訪ねたコルムリ。 ©Claudio Iannone

聖書に親しんでいる人にとって’最初の人間’と聞くとアダムを思い浮かべるかもしれない。だが、この作品のタイトルは、アルベール・カミュの絶筆となった未完成小説の映画化。カミュの創作の源泉をカミュ作品の芳香と滋味豊かに描いた自伝的作品だ。

主人公の小説家ジャック・コルムリ(ジャック・ガンブラン)は、サン・ブリユー(ブルターニュ地方)にある父の墓を訪ねる。フランスからアルジェリアに移住してきた父親が、第一次世界大戦で戦死。その父親の年齢より長生きし、作家としても名を成している。1957年夏、独立問題で揺れるアルジェリアの大学で講演するためにやって来た。アルジェリアの労働者階級出身のコルムリが、学問を修め、祖国フランスで作家として一目置かれている。だが、コルムリにとって育った故郷は、独立運動に沸き立つアルジェリア。「裏切り者!」「お前は、どちらの立場だ!」と怒声怒号が飛び交う中で、アラブ人とフランス人が共存できる可能性を説くコルムリの講演は騒乱状態になった。

独りアルジェリアで暮らす母親キャサリン(カトリーヌ・ソラ)を訪ね、しばし一緒に暮らしながら少年時代を追想するコムエリ。1歳の時に父親が戦死し、文字の読み書きも出来ない祖母(ウラ・ボーゲ)と母親(マヤ・サンサ)との3人暮らし。だが、小学校の成績は優秀なコルムリ。担任教師ベルナール(ドゥニ・ポダリデス)は、上級学校への進学を進めるが家の中で絶対的な権威を示す厳格な祖母は、叔父が勤める工場に就職するよう決めている。見かねたベルナール教師は、奨学金の道を開き、祖母を説得して進学させる、その後もコルムリとの師弟の交流は続いている。

貧しい家庭ながら学校での成績は優秀だったコルムリ少年。 ©Claudio Iannone
貧しい家庭ながら学校での成績は優秀だったコルムリ少年。 ©Claudio Iannone

貧しい労働者階級の生活だが、アルジェリアのアラブ人の暮らしはさらに貧しい。友達といっしょにアラブ人にいたずらもする。一方、学校では、アラブ人のハムッドがコルムリに何かにつけケンカを吹っかけてきた。そのハムッドが、講演でアルジェリアに来ていたコルムリを呼び出し、息子が過激派として不当逮捕されたので無実を晴らしてほしいと嘆願してきた。コルムリは、政府機関の伝手をとおして奔走するが…。

1913年に生まれ、1960年に交通事故で46歳の生涯を閉じた原作者アルベール・カミュ。「ある行動とそれを超える世界との比較から噴出してくる」両者を結び付ける’不条理’という感情を検証し、その’不条理’を明確に意識してみつめる態度を’反抗’と表現した。革命を中心として歴史を見つめながらも、テロなどの無差別な暴力を否定した、その思想と創作の源泉をカミュの作風に敬意をもって描いている。1957年と1924年の現在と回想へのスムーズな流れ。アルジェリアの美しさも印象的な自伝的映画が、’共存’出来なかった歴史の事実を超えて革命と暴力の限界を今日の私たちに語りかけている。

監督:ジャンニ・アメリオ 2011年/フランス=イタリア=アルジェリア/105分/原題:Le premier homme 英題:The First Man 配給:ザジフィルムズ 2012年12月15日(土)より岩波ホールほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/ningen/

トロント国際映画祭国際批評連盟賞、ヴェネチア国際映画祭外国人記者協会賞、イタリア・ゴールデングローブ賞外国人記者グランプリ受賞作品。