映画「マイク・ミルズのうつの話」――“心の風邪”が蔓延していく…
近年、世界中でうつ病にかかっているひとが急増している。日本でも1996年には433,000人だったのが、2011年には約2倍の958,000人に増加(厚生省調べ)。国内では約15人に1人が生涯に一度はうつ病を経験するとも言われる。
これだけ身近に広がっていることに、あらためて驚かされる。アメリカ映画だが、日本人プロデューサーとアメリカ人のクルーが協働して、抗うつ剤治療を受けている日本人5人の日常生活をルポし、自分の考えや気持ちを素直に吐露しているところがユニークなドキュメンタリー作品。
20代のMikaは、「毎日、嫌いなお酢を飲んで精神を鍛え」抗うつ剤治療も続けている。うつ病歴15年のTaketoshi(37歳)は、両親と同居していて、定職にはついたことがない。「精神病にかかったら人生終わり」と思っていたが、日記もきちんと書き、病院でのうつの集会にも真面目に参加している。プログラマーのKenは、休みの日になるとハイヒールとホットパンツで外出するが、家族にはゲイであることは打ち明けていない。定期的に緊縛師の所で縄縛プレイをしている。Tシャツ工場で働くKayokoは、自殺願望が強い。エンジニアのDaisukeは、毎日4種類の抗うつ剤を常用している。飲酒の量も多い。。。
段ボールひと箱に詰まった数種類の抗うつ剤。量の多少はあるが、取材に応じた一人ひとりが、抗うつ剤を手放せない。その苦しみ、そして仕事をし懸命に生活している心情を、ほんとうにストレートに語る。その姿勢は、ごく普通に生きていこうとする人たちとなんら変わるところはない。
かつては、専門医療機関で比較的限られた病名という感覚で語られていた「うつ」という病名。いつからこれほど大幅に増加したのか。マイク・ミルズ監督は、ある製薬会社がキャンペーンに使った’心の風邪をひいていませんか?’というキャッチフレーズに着目した。
「うつ」という精神的な病名は、社会からの脱落者もしくは敗者というような疎外感を強く与える響きを持って受け止められてしまう。じっさい、インタビューに応え、このキャッチフレーズに救われるような感覚で精神科に行きやすくなったと回答する人もいる。だが、その結果は…。
コンピューターでの的確な計算処理と計画に合わせた効率的なプロセスで結果を出すことが求められる高度化した現代の日本社会。壊れそうな心の芯をどうにか保ちながら、自分を見つめ普通の生活を暮らすとはどういうことなのか。このドキュメンタリーには、その生の声が繊細な感性を持って語られている。 【遠山清一】
監督:マイク・ミルズ 2007年/アメリカ/日本語・英語字幕付き/84分/原題:Does Your Soul Have a Cold? 配給:アップリンク 2013年10月19日(土)より渋谷アップリンクほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/kokokaze/
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