クラスで仲間はずれされているソン(右)は、転校生のジアと素晴らしい夏休みを過ごすが… (C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

小学校でのスクールカーストや“いじめ”グループから身を護るための裏切りなど、深刻な問題を正面から見つめて人間の心の闇と罪悪感の痛みがリアルに描かれている作品。重くて辛いテーマだが、単にいじめる悪い子たちと可哀そうないじめられっ子というステレオタイプな捉え方ではなく、ひとり一人の子どもたちの関係性とともに心の揺らぎの一瞬を丁寧に描き、壊れた友達関係は修復できることを指し示している。自我に芽生え自覚して生きようとしている子どもの世界には、大人はなかなか入り込むことができない。それはかつて自分たちが心の揺らぎの時代に対峙していたことどもを思い起こさせられる。

【あらすじ】
小学4年生のクラス授業。ジャンケンでドッジボール対抗の組み分けをしているが、ソン(チェ・スイン)の名前は最後までリクエストされず、お余りで入る組が決まった。クラスでもソンはいつもひとりぼっち。両親が共働きであまり裕福ではないソンは、スマホもなくクラスの子たちとLINEでつながることもできない。クラスでいつも成績トップのポラ(イ・ソヨン)は仲間たちといっしょになってソンを疎んじ、いじめの対象にしている。

夏休み前の最後の登校日。ボラから掃除当番を押し付けられたソンは、放課後にクラス見学に来た転校生のジア(ソル・ヘイン)を出会った。知り合って直ぐに意気投合したジアに、ソンは組みひもで編んだ自作のブレスレットをプレゼントすると喜んで腕に着けるジア。ジアの父親は事業に成功している裕福な家庭で母親は英国に住んでいて、ジアは祖母に家に引っ越してきたという。ジアの祖母(チェ・チャンスク)とソンの母親(チャン・ヘジン)は、同じ教会の婦人会での知り合い。教会の修養会は大人ばかりのため行く気がしないというジアの気持ちを聞いたソンは、弟ユン(カン・ミンジュン)の面倒を見るから一週間ジアを家に泊めたいと必死に母親を説得して許可を得た。

ソンは、心から素直をに話し合えて屈託なく遊べるジアとの素晴らしい夏休みになった。だが、始業式の日。担任教師から転校生として紹介されるジアに、ソンが笑顔で小さく手を振っても素知らぬそぶりをするジア。学習塾で友達になったボアからいろいろ聞かされたボアは、クラスで仲間外れにされたくないのかジアを疎んじていく…。

(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

【見どころ・エピソード】
クラスのみんなに疎外されていても、健気に自分を保とうとするソンの一挙一動が複雑な心境、心の動きの瞬間を生々しく描き撮っていく。ソン役のチェ・スインに限らない。転校してきたばかりのボラがソンを裏切り、やがて自分も仲間外れにされていくミステリアスな陰影を表現するイ・ソヨンや、平板ないじめっ子イメージではなくトップの成績やクラスでの人気を脅かす存在が現れた複雑な揺らぎを感じさせるポラ役のイ・ソヨン。子役たちの演技が生き生きしていて引き込まれる。本作が長編作品第一作のユン・ガウン監督は、事前にセリフや明確な指示を与えて役者たちが縛られることがないように、リアルな物語を撮るため台本を役者たちに与えないで撮影したという。是枝裕和監督作品「誰も知らない」のようにドキュメンタリータッチのシーンが、観る者を心のどこかに仕舞い込んでいた壊れた関係の修復への気づきと思い起こさせてくれる。

ソンの弟ユン役のカン・ミンジュンの愛嬌のある存在感は、重くなりがちなストーリー展開にさわやかな和みの空気を感じさせてくれる。プロレスごっこで怪我させられる近所の子といつも遊ぼうとする。なぜ、やられてもその子といっしょにいるのか。ユンが姉のソンに答えるひとことは、ソンの心情でもありこの物語が真実に語っているメッセージのようにも聴こえる。 【遠山清一】

監督・脚本:ユン・ガウン、企画:イ・チャンドン 2016年/韓国/94分/原題:The World of Us 配給:マジックアワー、マンシーズエンターテインメント 2017年9月23日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://watashitachi-movie.com
Facebook  https://www.facebook.com/watashitachimovie/

*AWARD*
2016年:第66回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門招待作品。第56回ズリーン国際映画祭最優秀作品賞・最優秀主演女優賞(チェ・スイン)受賞。第17回東京フィルメックス観客賞・フィルマークス賞・スペシャル・メディション賞受賞。第10回アジア・パシフィック・スクリーン・アワード ベストユース映画賞受賞。第36回韓国映画評論家協会賞新人監督賞受賞。ほか多数受賞作品。