広東省の縫製工場長ヨウリャンと不倫関係にあるシャオユー。踏ん切りのつかないヨウリャンに疑念を抱きつつあるのだが… © 2013 BANDAI VISUAL, BITTERS END, OFFICE KITANO

ヴェネツィア映画祭で金獅子賞を受賞した「長江哀歌(エレジー)」(2006年)、国営工場の繁栄と衰退を描いた「四川のうた」(2008年)など、実在の出来事をドキュメンタリータッチの物語に作品を仕上げていたジャ・ジャンクー監督。本作では、中国各地で起きたいくつかの事件をモチーフにして、急速な経済成長のなかで表れつつある様々な差別と怒りを4つの物語に構成し、人間の哀しみと罪の本質と描いていく。

<山西省の男>
烏金山(ウージンシャン)の炭鉱夫・ダーハイ(チャン・ウー)。共同体の共有財産だった炭鉱会社が、同じ40代で同級生の実業家・ジャオの私有会社に独占された背景には村長らとの汚職があったのではないかと疑い、激しい怒りを抱いている。ジャオもダーハイの態度に業を煮やし、手下に痛めつけさせ口止め代わりの慰謝料で黙らせようとする。街の広場で演じられていた古典演劇「水滸伝」。「憤怒により、剣を抜き…」という主人公・リン・チュウのセリフに自らの思いを重ねるダーハイは、自宅から猟銃を持ちだして会社へと向かう…。

<重慶の男>
烏金山への山道でダーハイとバイクですれ違ったチョウ(ワン・バオチャン)は、故郷の重慶に向かっている。すると、人気のない山道で3人の男たちにバイクに停められ、金を出せと脅迫される。胸ポケットから出したのは、財布ではなく拳銃。使い慣れた早打ちで3人とも射殺した。重慶の村に戻ると妻と一人息子が待っていた。出稼ぎ先からの多額の送金を受け取っている妻は、チョウがまともな仕事についてい追ないことに気づいていた。チョウは、また出稼ぎに行くと言い残して町へと出かけていく…。

<湖北省の女>
‘仕事’を終えて夜行バスに乗り込んだチョウ。同乗していた縫製工場長を務めるヨウリャン(チャン・ジャイー)は、湖北省・イーチャンのバスターミナルで降りた。そこには恋人のシャオユー(チャオ・タオ)が待っていた。2人の関係は長い。家族にも言えない関係に決着をつけたいシャオユーは、「奥さんをとるなら、私と別れて。お互いに考えて決めましょう」と話すのだが。ヨウリャンを見送ったシャオユーは、勤め先の風俗サウナに出勤している。受付嬢の仕事だけで、客にサービスしないのだが役人風を吹かせる嫌味な客2人から執拗に迫られて…。

<広東省の男>
ヨウリャンが工場長を務める重慶市の縫製工場で働く青年シャオホイ(ルオ・ランシャン)は、同僚の工員に怪我させてしまい逃げるようにして工場を辞め広東省のトングァンへ行く。友人の伝手でナイトクラブのボーイとして働き、そこでホステスのリェンロンと出会う。ホステスの中では、あまり擦れていないリェンロン(リー・モン)に恋心を抱くのだが、彼女は故郷に幼い子どもを残して働いており、シャオホイよりは現実の厳しさをはるかに知っている。傷心のうちナイトクラブを辞め、友人の工場に勤めることにしたシャオホイに、故郷の母親から電話が入った…。

重慶市の縫製工場から流れてきたシャオホイ。クラブでいかがわしいサービスをするホステスのリェンロンに淡い恋心を抱くのだが、リェンロンほどには現実を知らない… © 2013 BANDAI VISUAL, BITTERS END, OFFICE KITANO

北野オフィスとの日中合作。しかし、暴力の描き方は中国伝統の武侠映画の所作というか’美枝’をきるようなシーンを選出している。ジャンクー監督自身、武侠映画が好きであることと、キン・フー(胡金銓)監督の「侠女」にオマージュを捧げる作品だとインタビューに答えている。チャン・ウーやチャオ・タオら出演する役者たちも、その演技を愉しんでいるようで輝いている。

一方で、人間の本質としての’怒り’と’暴力’という内面性にも、深い洞察を感じさせられる。ダーハイ、チョウ、シャオユーらの怒りは、他者という外側へ向かって現れるが、若い世代のシャオホイはその怒りの所在さえ持て余しているようでもあり、内側へと向けられていく。そうした内面性への洞察は、様々な形で暮らしの中での宗教性や信仰への象徴として描かれるシーンにも見受けられる。たんなる娯楽映画だけに終わらせない本作にも、各国の映画祭がジャンクー監督の作品にオファーを送る源泉を見ることができる。 【遠山清一】

監督:ジャ・ジャンクー 2013年/中国=日本/129分/原題:天注定/英題: A Touch of Sin 配給:ビターズ・エンド、オフィス北野 2014年5月31日(土)よりBunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/tumi/
Facebook:https://www.facebook.com/pages/罪の手ざわり/771682749523010?fref=ts

2013年第66回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞、第7回アブダビ映画祭最優秀作品賞受賞、第50回台湾金馬奨最優秀音楽賞・最優秀編集賞受賞、トロント映画批評家協会賞最優秀外国映画賞受賞、フランス映画批評家協会賞最優秀外国映画賞受賞作品。