イ・ミョンバク元大統領に路上で取材インタビューするチェ・スンホ監督 (C)KCIJ Newstapa

韓国の李 明博(イ・ミョンバク)第17代大統領と、朴 槿恵(パク・クネ)第18代大統領。二人の元大統領を“主犯”と断定し、大統領府の意向を忖度した官僚経験者や経営者らをマスメディアの社長・経営者として送り込み“共犯者”たちとする、政治権力の介入と言論弾圧の実態を描いたドキュメンタリー。とりわけ強硬な政治介入を受けた公共放送局韓国放送公社(KBS)と公営放送局文化放送(MBC)では、政治権力に抗った経営者・放送人放送人たちが人事異動で閑職へ配置転換されたり不当解雇などの厳しい情況へ追い込まれても報道の自由を守ろうと激しく抵抗する。その闘いの記録は、いまの日本にも直截的な問い掛けとして響いてくる。

政治権力の介入・占領
そして“マスゴミ”の誹り

2008年、イ・ミョンバク大統領は就任式後、マスコミによる閣僚候補者の身上調査報道が起因になり2人の閣僚人事を見送ざるを得なくなった。それは、国民からの高い人気と評価を背景に誕生した大統領のイメージからは気づかれないマスコミへの政治介入の口火を切る展開を見せていく。二大放送メディアの一翼で政権に批判的なKBSの社長人事に介入。チョン・ヨンジュ社長を退任させてイ・ミョンバク大統領選挙でマスコミ特別補佐官を務めたキム・インギュを社長に据えて大統領府の意向に沿った社内体制を構築する。キム・インギュ社長就任後、イ・ミョンバク大統領が推し進めていた4大河川事業の問題点は取り上げられず、政府を擁護する多様な番組制作と放送を展開。だが、政府寄りの偏向報道に対する批判は増大していく。

MBCを解任されたオム・ギヨン社長は、機動隊によって封鎖されたMBC玄関前の階段を下りて去っていった。新社長に送り込まれたキム・ジェチョルは、すぐに政権に批判的なニュースと時事番組の整理を始める。MBCのPDやジャーナリストたちは、キム・ジェチョル社長の横暴な介入に対して抗議闘争を展開、TV局内で最長170日間ストライキへと発展する。だが、新体制は当時PDを務めていたチェ・スンホはじめ6人のジャーナリストを解雇し、ストライキに参加した100人余りの放送人たちを停職・懲戒処分にする。

KBS、MBCの労働組合や残った放送人たちの抵抗は続けられた。またKBS、MBCなどを解雇されたジャーナリストのチェ・スンホらは、綿密な取材による調査報道によって報道の独立性を確保しようと非営利民間団体探査ジャーナリズムセンター「ニュース打破」を立ち上げた。

(C)KCIJ Newstapa

メディアへの政治介入は、パク・クネ大統領政権になっても強硬に行われた。セウォル号沈没の参事では、乗客全員救助の誤報が発表されたが、現場記者が誤報を本社に伝えても政府が訂正を発表するまでMBCの報道は誤報のまま揺るがなかった。パク・クネ大統領を弾劾へと追い詰めた政治スキャンダルともいえるチェ・スンシル事件は、新聞各紙では報じられてもMBC系では縮小・隠ぺい・曖昧報道に終始した。大メディアの醜態に国民は背を向ける…。

ジャーナリズムの原点は
“記録”し続ける使命

政権に批判的な言論を封鎖しようとする強硬な政治介入の実態を粘り強く追跡していく意志に感服する。日本ではほとんど知らされず、断片的に報じられる情況では、TV局の長期ストライキや機動隊出動を“感情的で激しい国民性”と短絡的な印象で受け止めていたのかもしれない。本編で、ストライキ参加で懲戒を受けたあるジャーナリストが、話し合いもできなくなりストライキが最後の手段であったと悲痛な胸の内を吐露する。
また、「ニュース打破」のチェ・スンホ氏や記者たちが、元大統領や社長ら“共犯者”たちに果敢に直接取材を試みる。もちろんストレートにアポイントが取れるわけもなく、パーティ会場や路上でのチャレンジを幾度も目にする。ある時、質問を遮られると「質問させないのですか? 記者が質問できなければ国は滅びますよ!」と詰め寄る。その一貫した姿勢は、ジャーナリストが国民に向かって伝える責務を担っている自覚の宣言とも受け取れる。

企業広告なしで報道を続ける「ニュース打破」は、意識ある個々人と団体から支援で報道活動を継続している。10年近く経て重い病に罹った一人のジャーナリストを見舞うシーンがある。そのジャーナリストは、数多くの放送人やジャーナリストたちが懲戒処分や解雇に遭い思うように報道できない情況が迫っても「自分たちは沈黙していなかった。記録するだけでも意味がある」と述懐する。ジャーナリストの語源はジャーナル(日誌)であることが深く印象に残る。

だが、本作の内的メッセージは局内に残った少数の反骨ジャーナリストを追う一方で政権にすり寄っていく報道機関内の“共犯者”たちや、表現以外では二人の大統領を断固支援した“教会”に対しても“共犯者”となりうる今日的情況をも覗かせている。【遠山清一】

監督:チェ・スンホ 2017年/韓国/105分/ドキュメンタリー/原題:공범자들、英題:Criminal Conspiracy 配給:東風 2018年12月1日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
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