映画「フレンチアルプスで起きたこと」--男女観の差異が浮き彫りになるシニカルなコメディ
「男の子なんだから強い。泣かないで!」と言われて育てられているうちに、“男は妻と子どもたちを危険から守る存在”という通念に男性も社会一般も囚われていないだろうか。そうした男性と女性の心理や感性の違いを見事なまでに深くえぐり出している。重くなりがちなテーマを醸しだしながらシニカルなコメディに仕上げられていて、深みとくすぐりの味付けが効いているヒューマンドラマ。
仕事ができるビジネスマンのトーマス(ヨハネス・クーンケトーマス)は、妻のエバ(リサ・ロブン・コングスリ)とヴェラとハリーの幼い姉弟を連れて久しぶりに5日間のスキー旅行うを楽しんでいる。昼夜を問わず人工的に小規模の雪崩を起こすための爆発音が山にこだまする。
2日目。スキーを楽しんだ後のランチタイム。人的に起こしている雪崩が、いつになく大きくなりスキー客が食事しているテラスに迫ってきた。はじめはスマホの動画撮りしてた人たちだが、突然迫ってくる雪崩に慌てふためき悲鳴を挙げる。雪煙が覆い始めたときエバはとっさにヴェラとハリーを抱きかかえる。雪崩はテラスの直前で止まり難を避けられたが、立ち込める雪煙が治まり掛けた頃に姿を現したトーマスに、エバと子どもたちは失望と不信感を隠さない。
夫であり父親なのに「私と子どもたちを置き去りにして逃げた」となじるエバに、「認識の違いだ」と言って認めようとしないトーマス。二人の口論は次第に激しくなり、その険悪さに子どもたちは離婚してしまうのではないかと悩む。楽しむために来たスキー旅行だが、バラバラになっていく家族の心。失墜した信頼を必死に修復しようとするトーマスだが、ふたたび家族として一つの想いに戻ることができるだろうか…。
突然の出来事にとっさの行動をとったトーマス。その行動そのものがいけないのか、面子から認めようとしない態度がいけないのか。いずれにしても身につまされる展開に、男性の辛さがひしひしと伝わってくる。だが、それだけには終わらせない、ラストのシークエンス。山道を降りていくバスの運転手の危なっかしさに耐えきれずに取ったエバのとっさの行動。それは新たな危険性に乗客らを巻き込む行為にも思えなくはない。その解釈に意見は様々にあることだろう。オストルンド監督は、男性と女性という性差のことよりも人間性の真相をブラックユーモアの中に描いて見せてくれている。 【遠山清一】
監督・脚本:リューベン・オストルンド 2014年/スウェーデン=デンマーク=フランス=ノルウェー/スウェーデン語/118分/原題:Turist 配給:マジックアワー 2015年7月4日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.magichour.co.jp/turist/
Facebook https://www.facebook.com/turistjapan/
*Award*
2014年第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞受賞。第72回ゴールデン・グローブ賞外国映画ノミネート作品。2015年第50回スウェーデン・アカデミー賞監督賞・脚本賞・撮影賞・編集賞・助演男優賞受賞作品。第87回アカデミー賞外国映画賞スウェーデン代表作品ほか多数。