チェルシー・フラワーショーでメアリーはステファニィの園芸センスが自分と同じであることに共感するが… (C)2014 Crow's Nest Productions
チェルシー・フラワーショーでメアリーはステファニィの園芸センスが自分と同じであることに共感するが… (C)2014 Crow’s Nest Productions

エリザベス女王が総裁を務める英国王立園芸協会主催のチェルシー・フラワーショーは、100年以上の歴史を誇り、世界の園芸のトレンドに大きな影響を及ぼす権威あるガーデニング&フラワーショー。このフラワーショーの2004年大会に出展し、史上最年少でアイルランドに初の金メダルを獲得した園芸家メアリー・レイノルズの実話にもとずく“サクセス・エンターテイメント”ドラマ。アイルランドの片田舎に育ち、ケルト文化の香りを醸し出すメアリーのデザインは、現代の庭園が見失っている自然本来の美しさと自然の大切さを思い起こさせることを提唱する。奇跡的な出来事にハラハラさせられながらも、侘びと寂の日本文化にも通じる自然庭園のテーマがしっかり捉えられていて愉しい作品。

【あらすじ】
アイルランドの片田舎の農家に生まれたメアリー・レイノルズ(エマ・グリーンウェル)は、物心ついたときから「人と自然は共存している」と両親に教えられ、ケルト人が遺したストーンサークルで遊び、たくさんの種類の野草や樹齢数百年のサンザシの花に癒されるなど豊かな自然のなかで成長した。一方で、父親が語る「人が地球を壊している」こともよく理解している。そんなメアリーの夢は、自然と人とが共生する調和を表現した庭をデザインして世の中に送り出すこと。ある日、著名な園芸家シャーロット(クリスティン・マルツァーノ)がスタッフ募集の広告を出しているのをみつけたメアリーは、シャーロットの事務所がある首都ダブリンへ向かう。

シャーロットの事務所で最初に出会ったのは、シャーロットにヴァイオリン演奏を頼まれていたクリスティ(トム・ヒューズ)。クリスティの演奏でリフレッシュしたシャーロットは、メアリーのデザインブックを見て「とりあえずお試しで」と試験採用する。だが、人使いは荒い。ミュージシャンや女医はじめセレブなクライアントの依頼もメアリーに振る。友人のイヴ(ローナ・クイン)が、シャーロットの園造として雑誌に載ったデザインを見てメアリーに利用されていると注意するが、メアリーは自分の作品が評価されていることを素直に喜ぶ。

エチオピアの緑化事業に自然と人との未来にイメージが湧き立つメアリー (C)2014 Crow's Nest Productions
エチオピアの緑化事業を手伝い、自然と人との未来にイメージが湧き立つメアリー (C)2014 Crow’s Nest Productions

エリザベス女王が総裁を務める英国王立園芸協会主催のチェルシー・フラワーショーに、後援者の招待で視察に来たシャーロット。だが、セレブな人たちの会場に、お供のメアリーは入場させてもらえなかった。一般会場を見学するメアリーの耳に、「バカげている。人もデザインも横柄だ」とつぶやく青年の声が届いた。声の主はクリスティだった。ヴァイオリンの演奏は生活のためで、本来は植物学者で講演もしているという。

シャーロットは、主催するパーティでメアリーのデザインブックを見せながら自分のデザインとして自慢気に話している。しかも、その夜は事務所兼自宅には戻らないと連絡が入り、挙句の果てに試験採用は終わりよとクビを宣告された。故郷に帰ったメアリーだが、いつまでもくじけてはいない。翌年のチェルシー・フラワーショーに出展すると一念発起。祈りがきかれると信じて「私のデザインに金メダルをくださり感謝します」と紙に書いて壁に貼ってデザインに取り掛かる。

チェルシー・フラワーショーの責任者には相手にもされなかったが、秘書のマリーゴールド(ジャニー・ディ)の理解もあって取りあえず応募出来た。500種類以上の野草と樹齢200年のサンザシ8本と40トンの石材で設計した“ケルトの聖域”の理念は「平凡な日常を忘れ、自然の力を感じられる魔法の池」。たった8枠のスペースに2000件以上の造園家が応募に勝ち残って合格したメアリー。だが、参加資金25万ポンド(約3800万円以上)、80日後には施行を開始し3週間で完成させるという厳しい条件をクリアしなければならない。

メアリーにはコネもお金もない。合格したことでラジオに出演し協力をアピールした後は、シャーロットの事務所でデザインしたクライアントを訪ねたがけんもほろろ。それでもめげない。その理念を理解してもらえそうな自然保護団体フォーチャー・フォレストに協力を求めて訪ねると、クリスティがいた。理念は団体に理解され賛同を得たが、施工にはクリスティの協力が要るという。だが、肝心のクリスティは、庭のデザインには関心がなく、それよりも砂漠の緑地化を進めることの方が大切だと言ってエチオピアへ旅立ってしまった。施工に取り掛かる40日前、どうしてもクリスティの協力が必要なメアリーは、クリスティが緑化作業しているエチオピアのラリベラへと向かう…

メアリーがデザインした庭園“ケルトの聖域”は500種類の野花とサンザシの木、石造りのいす、円形の池などケルト文化の自然観を表現し訪れた人の心を癒す (C)2014 Crow's Nest Productions
メアリーがデザインした庭園“ケルトの聖域”は500種類の野花とサンザシの木、石造りのいす、円形の池などケルト文化の自然観を表現し訪れた人の心を癒す (C)2014 Crow’s Nest Productions

【見どころ・エピソード】
自然を愛するケルト系キリスト教などアイルランドには、ケルト文化がアイデンティティーとして今も息づいている。メアリーが受賞した庭園“ケルトの聖域”を忠実に再現した造形美にはその感性が存分に表現されている。また、クリスティとメアリーが、エチオピアの中央ラリベラ公園プロジェクトの草創期に関わっていくシーンでは、世界遺産でもあるエチオピア正教会の岩窟教会群からマドハネ・アレム聖堂と聖ゲオルギウス聖堂が物語の舞台としてしっかり映像化されている。

中央ラリベラ公園プロジェクトに日本が関わっていることもさりげなく描写されていて関心を喚起される。クリスティが「植林事業に日本の文筆家Kaoriが協力してくれている」とメアリーに説明するシーンがある。Kaoriとは、NPO法人フー太郎の森基金の新妻香織代表のこと。クリスティが、砂漠の緑化のため植林事業を重要視し、メアリーのガーデン・デザインから人々を自然の美しさと大切さを呼び覚まそうとする活動に乗り切れない緊張関係を描いたシークエンス。そこに、岩をくり貫いた岩窟教会、ケルト文化の香りを受け継いでいるメアリーとクリスティ、古代縄文時代からの文化を受け継がれている日本文化の自然観がエチオピアのラリベラで協働している。ただミラクルなサクセスストーリーで終わらせない、自然と文化への畏敬が織り込まれている脚本と演出が心地いい。 【遠山清一】

監督・脚本:ビビアン・デ・コルシィ 2014年/アイルランド/100分/映倫:G/原題:Dare to Be Wild 配給:クロックワークス 2016年7月2日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://flowershow.jp
Facebook https://www.facebook.com/flowershow.movie/

*Award*
2015年ダブリン国際映画祭観客賞選出作品。