(C)2016 コピーライツファクトリー/パル企画
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映画は総合芸術、監督は内にあるイメージを具象化し作品にする。監督の個性・思想がその作品に滲み出てくる。映画監督が映画監督を師と仰ぎ慕う。そこには端に映画をつくる技術的なものを超えて、人間としての人格、思想をも尊敬し、響き合うものを確かめたいという情熱があることを、この作品を観て実感させられた。

黒木和雄監督を師と仰ぎ
その人柄と思想を紐解く

本作の後藤幸一監督は、2006年4月に急逝した黒木和雄監督の下で「日本の悪霊」(1970年作品)から「竜馬暗殺」(74年)、「祭りの準備」(75年)、「原子力戦争」(78年)まで8年半、助監督を務めていた。黒木和雄が、非商業主義的な芸術性の高い作品を製作・配給していたATG(日本アート・シアター・ギルド)の代表的な監督の一人として活動していた時期に映画の創作を学んだ後藤監督。監督として独立後も公私にわたって親交を深め黒木和雄を師と仰いできた。

黒木和雄の没後10年が近づき、後藤監督のもとにもいくつかの企画が寄せられてきた。黒木組の仕事に柱となっていたスタッフ、俳優たちの幾人もがすで他界している。後藤監督は、スタッフ・俳優たちと黒木作品の紹介と業績をたどるのではなく、「黒木和雄は何を追って撮って来たかを、僕なりに受け取ったものを次の世代へ伝えていく作品にしたい思った」と、あるトーク番組で本作に取り組んだ動機を語っている。

それは、戦時下で失われていく平凡のままでよい人々の日常の暮らし、敗戦後の破壊された町と家族の絆を描き、黒木和雄の戦争レクイエム四部作とも評される「TOMORROW 明日」(1988年)、「美しい夏キリシマ」(2002年作)、「父と暮せば」(04年)、「紙屋悦子の青春」(06年、遺作)を骨格に据えて、黒木和雄が込めた非戦、平和への想いを紐解き、関係者らの証言と街頭インタビュー取材などで現在につなげながら受肉させていく。

(C)2016 コピーライツファクトリー/パル企画
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いつか歩んだ破滅への道には戻らない
黒木和雄が遺したものを語る人々

黒木和雄が語る作品と非戦への想いの肉声とともに、ジャーナリストの田原総一郎、作家の澤地久江、岩波映画の高野悦子(故人)ら評論家や映画関係者のほか黒木暢子(夫人)、同社大学時代の同窓生ら身近な人々など幅広くインタビュー取材し、黒木和雄の人柄と思想を多角的に紹介している。

黒木和雄が映画「父と暮せば」で描いた敗戦直後の広島で原爆瓦を収集する人々。戦後70年を超えたいまも、広島大学の教師・学生の有志らによって原爆瓦の収集が続けられていることを本作はしっかり記録している。“いつか歩んだ破滅への道には戻ってはいけない”との想いが、若い世代に届くことを願ってやまない作品だ。 【遠山清一】

監督:後藤幸一 2016年/日本/91分/ドキュメンタリー/映倫:G/ 配給:パル企画 2016年11月5日(土)より名古屋・名演小劇場にてロードショー上映中、11月19日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。
公式Facebook https://www.facebook.com/kurokikazuo.movie/