「組織的犯罪処罰法改正案(共謀罪法)」へ抗議声明 カンバーランド長老神学社会委
以下声明文
内閣総理大臣 安倍晋三様
2017年6月15日
カンバーランド長老キリスト教会日本中会
神学・社会委員会委員長 菅原 公一
「組織的犯罪処罰法改正案」の参議院本会議での採決強行に抗議し、
この法の廃止を求めます
本日、「組織的犯罪処罰法改正案」(以下「共謀罪法」)は、その重大性にもかかわらず、政府与党が参議院法務委員会での採決手続きを省略して「成立」されました。この行為は国会法56条2項の要件を満たしていないことからも、法に則った立法手続きを無視した暴挙と言わざるをえず、到底容認できるものではありません。私たちは本法案の採決強行に厳重に抗議し、以下の理由により、改めて本法に反対し、廃止を求めます。
1.共謀罪法は「内心の自由」への侵害です。
共謀罪法はテロとは無関係な277もの犯罪を対象とし、その実行前の「準備行為」「計画」の段階での処罰を可能とするものです。しかし、犯罪が実行されていない段階で、その準備・計画を行っていたかどうかは、具体的な物証がある場合を除き、容易に判断できないことが考えられます。したがって、ごく日常的な行為が「準備行為」と見なされてしまう可能性があります。捜査機関の主観的判断によって、内心が裁かれることが起こります。これは、権力による内心の自由(憲法19条:思想良心の自由、憲法20条:信教の自由)への侵害を推し進めることに他なりません。
2.共謀罪法は集会・結社・表現の自由への侵害です。
政府は、処罰の対象を「組織的犯罪集団」に限るとしています。しかし、「組織的犯罪集団」の定義や範囲が曖昧です。そのため、健全で民主的な活動であっても、政府にとって不都合な人々とみなされれば、処罰の対象とされる可能性があります。
その結果、捜査機関の恣意的な判断によって組織的犯罪集団と見なされた場合においても、その団体は、共謀罪法の対象となり、犯罪を実行していなくても処罰の対象となります。これは憲法21条の「集会・結社・表現の自由」の侵害に他なりません。
3.共謀罪法は治安維持法の再来です。
1925年に制定された治安維持法は、「国体の変革」(天皇制の廃止)を目的とする結社を取り締まるために作られました。1928年の改正によって、「結社の目的遂行のためにする行為」も処罰の対象となりました。さらに1941年の全面改正によって、「神宮もしくは皇室の尊厳を冒瀆する者」という文言が加えられ、弾圧の対象は、共産主義者だけでなく、自由主義者、宗教団体、社会運動全般へと拡大していきました。教義の中に国体を否定する教えがあると見なされた宗教団体は、治安維持法による摘発を受けるようになりました。翌年の1942年6月26日早朝、当時の日本基督教団に属していたホーリネス教会の教職者 96名が「治安維持法」違反容疑で一斉に逮捕され、教会が閉鎖されるという事件が起こりました。逮捕された教職者の内7名が獄中ないし出獄後に死亡しています。さらに翌年には、創価学会幹部が全員逮捕され、牧ロ常三郎初代会長が獄死しています。犯罪の合意という個人の内心を処罰しようとする共謀罪法は、かつての治安維持法と同じ危険性を秘めています。
4.共謀罪法はテロ対策とも「国際組織犯罪防止条約」とも無関係です。
政府は「国際組織犯罪防止条約」の批准のためには、テロ対策を目的とした共謀罪法が必要であると主張してきました。しかし、「国際組織犯罪防止条約」は、経済的利益を追求する国際的な組織犯罪の防止を目的としており、テロ対策を直接の目的とするものではありません。すでに日本は、爆弾テロ防止条約やテロ資金供与防止条約など、13本のテロ対策防止条約を締結し、またテロ資金提供処罰法、凶器準備集合罪など、国内法も整備されており、新たに「共謀罪」を新設する必要がないことは、多くの法律の専門家たちが指摘しているとおりです。結局、政府の目的は、テロ対策に名前を借りた共謀罪法の新設によって、政府に批判的な団体や市民の活動、言論を監視し、規制することにあると考えざるを得ません。
私たちは、神によって造られた人間のいのち、基本的な人間の尊厳を大切にする者として、基本的人権を尊重し、武力によらない平和主義を掲げ、国民主権に立脚する日本国憲法を誇りに思っています。それ故、私たちは日本国憲法の基本的人権尊重の原則(11条、97条)、「思想及び良心の自由」(19条)、「信教の自由」(20条)、「集会・結社・表現の自由」(21条)を侵害するおそれのある共謀罪法に強く反対し、廃止を求めます。