©Kid Film 2010
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前作「木漏れ日の家で」で、森に囲まれた一軒家に犬と独り暮らしする老婦人アニェラをとおして’老い’と’生’をリアルに描いたドロタ・ケンジェジャフスカ監督は、本作で夢とあこがれに向かって屈託なく突き進んでいく3人の孤児たちの姿をリアルに描いていく。前に向かって生きようとする彼ら3人の表情とバイタリティに、なにか胸を熱くされる。

ポーランドと国境を接する旧ソ連領の小さな村。年長の少年リャパ(アフメド・サルダロフ)と10歳のヴァーシャ(エウゲヌィ・ルィパ)、6歳のペチャ(オレグ・ルィパ)兄弟の3人は、身寄りもなく鉄道駅舎のベンチ下を根城にしている孤児たち。リャパとヴァーシャは、隣りの外国ポーランドに行けばきっといい暮らしが出来ると信じて以前から計画を練っている。だが、まだ幼いペチャは足手まといになりかねないため、村に置いていくつもりでいる。しかし、リャパとヴァーシャが何か計画している雰囲気を察していたペチャ。リャパとヴァーシャが国外脱出へ出発した夜、泣き叫びながら必死に兄たちの後をついていき、とうとう列車に乗って同行するのを認めさせた。

途中駅の町の朝市では、一番年下のペチャが愛嬌たっぷりにパン屋のおばさんを褒めちぎり、ちゃっかりパンを恵んでもらい食料調達係をこなす。その町外れで炭焼きをしている老人は、国外逃亡の中継基地にするためリャパが何度も訪ねて顔見知りになっていた。リャパたちの計画を知っている老人は、幼いペチャには危険と思い、いっしょに暮らさないかと誘うがペチャは兄たちと一緒に行くと言い張る。

©Kid Film 2010
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国境に近い道路を、結婚式の一行の車と出合い、縁起ものの’しあわせになるコイン’を花嫁からもらうペチャ。ついでにパーティに参加させてもらい食料を調達することもできた。外国に行ったらいい暮らしをして、王様のようになって村に帰る夢を語り合う3人の孤児たち。そして、ついに国境の鉄条網を潜り抜け、ポーランドの村にやってきたが、3人には思いもつかなかった厳しい現実が待っていた。

シンプルなストーリー展開。憧れのポーランドでの受難のほか、孤児たちに命の危険が及ぶような出来事が降りかかるわけでもない。母親の温もりを知らないであろうペチャ。物心ついてから大人をおだてて食べ物をもらうような狡猾さが身についた一方で、コートのポケットにはいつも薄汚れたテディベアを仕舞い込み、自分の仲間として大切にする幼子心がぐっとくる。

この3人の目をとおして大人たちが必死に生きている姿も自然に描かれている。大人たちと関わるシーンが少ないだけに、大人たちの表情は生き生きしていて印象に残る。

リャパとヴァーシャ、ペチャたち3人のなんとも明るい表情。貧しさを知っている大人たちは、孤児の彼らを追い払うこともなくそのままにしておく。それでも、食べることには厳しい現実は、少しでも幸せに暮らせるのではないかという外国に、未来の夢を持ち続けさせる。その姿には、自立している意志さえ感じさせられる。

セリフとは思えないような簡略された会話と子どもたちの仕草ががなんともリアル。主要な配役が、オーディション選ばれた子どもたちも主要な配役もほとんど素人の人たち。そのリアリティが、生活の不安や困難な状況の中でも、希望を失わずに前を見つめるリャパとヴァーシャ、ペチャたちの明日を見つめるバイタリティを際立たせているのだろう。 【遠山清一】

監督・脚本:ドロタ・ケンジェジャフスカ 2010年/ポーランド=日本/118分/映倫:G/原題:Jutro bedzie lepiej 配給:パイオニア映画シネマデスク 2013年1月26日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.pioniwa.com/ashitanosora/

第61回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門グランプリおよび平和映画賞受賞作品。