Movie「魔女と呼ばれた少女」――子ども兵にされた二人の“生への反抗”
政府と反政府軍の戦闘が続く地域では、いまも子どもたちを拉致し、強制的に」’子ども兵’に鍛え上げている現実がある。10年前、ビルマの双子の子ども兵がニュースでインタビューに答えている事実に衝撃を受けたキム・グエン監督。10年かけてこの作品の構想を練り上げ、厳しい現実を正面から見つめ、初々しい二人の愛情と生きる希望を失わない’生への反抗’をたくましくも詩的なタッチで描いている。
舞台は、コンゴ民主共和国(コンゴ)。主人公の少女コモナ(ラシェル・ムワンザ)が、「もうすぐ生まれる私の赤ちゃん。ママがなぜ生きて来たか分かる」と独白する物語は、なんとも壮絶だ。12歳の時、平和に暮らしていた村は、グレート・タイガー(ミジンガ・ムウィンガ)率いる反政府集団に襲われた。成人男女を殺戮し、子どもたちだけを拉致していく。このとき、コモナは捕えられた両親を軽機関銃で射殺するよう命じられ、覚悟した両親にも説得されて涙を流しながら引き金を弾いた。命じた兵士は、コモナに「これでお前も立派な兵士だ」と言葉をかける。
反政府集団での厳しい訓練。「両親と思って大切にしろ」と手渡されるのは、軽機関銃。疲れると麻薬を与えられ、もうろうとした中での訓練とマインドコントロールに恐怖心も感覚もマヒ、ただ戦って奪い取ることしか教えられない。だが、コモナは麻薬を与えられると死んだ両親や兵士たちの亡霊を見るようになる。亡霊が「逃げろ」と叫ぶと敵襲を受けても間一髪で危機を脱出し、勝利することもある。やがてグレート・タイガーの’魔女’と呼ばれ、兵士たちからも一目置かれ特別扱いを受ける。
そんなコモナにも春が来る。なにかと優しくしてくれる先輩兵士マジシャン(セルジュ・カニンダ)が、「ボスは戦闘に負ければお前を殺す」、だからここから逃げろと勧める。マジシャンの言葉どおりコモナもほかの魔女がグレート・タイガーに殺される現場を見ている。意を決して集団を逃げた二人。その逃避行でマジシャンは、13歳のコモナにプロポーズした。コモナは、父から教えられていた通り「私と結婚したいのなら、白いオンドリを捕まえて来て」と要求する。村人たちには、言い伝えを真面目に受けて必死に’白いオンドリ’を探すマジシャンを笑う。希少な白いオンドリはなかなか見つからない。二人の感情も微妙になった時期もあるが、マジシャンの諦めない意志は、オートバイを乗り回す男との出会いでようやく見つけて’白いオンドリ’を手に入れた。
マジシャンは、肉屋を営んでいる伯父(ラルフ・プロスペール)の家に隠れ住むことにした。だが、グレート・タイガーの追手が迫ってきた。兵士たちに取り囲まれた二人。マジシャンは覚悟を決め、「コモナは魔女なんかではない、おれの妻だ」と言い放ち、そして「コモナ、お前は生きろ」と言葉を掛ける…。
助演男優賞を受賞したマジシャン役のセルジュ・カニンダ始めほとんどの出演者がオープン・オーディションで選ばれ、プロの俳優は3人だけ。主演女優賞のラシェル・ムワンザは、首都キンシャサのストリート・チェルドレンだったところをキム監督に見いだされた。そうした現実の厳しい空気を吸っている人たちが醸し出し緊張感と生への希望。
キム・グエン監督は、あるインタビューで「これは、戦争の世紀である21世紀においても希望を見出そうとする、人間の本能についての映画だと思っている」と答えている。その言葉通り、マジシャンの少年のひたむきさと愛情をもって生きことへの希望や、子どもを孕まされたコモナの生命を愛おしみたくましく生きようとする姿は、人間が絶望的な状況な中でも新しい力を得られる存在者であることを感じさせられる作品だ。 【遠山清一】
脚本・監督:キム・グエン 2012年/カナダ/90分/映倫:R15/原題:Rebelle 配給:彩プロ 2013年3月9日(土)シネマート新宿ほか全国順次公開。
公式サイト:http://majo.ayapro.ne.jp
2013年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品、バンクーバー映画批評家協会賞作品賞・主演女優賞・助演男優賞受賞作品、2012年ベルリン国際映画祭銀熊賞・主演女優賞受賞、トライベッカ映画祭作品賞・主演女優賞受賞作品。