カルトの共同生活で'マーシー・メイ'と改名されたマーサー。 ©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
カルトの共同生活で’マーシー・メイ’と改名されたマーサー。 ©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

カルトの共同生活にはまり、洗脳され、トラウマを抱えた若い女性マーサ(エリザベス・オルセン)が、心に湧いた疑念から自らカルト集団を脱出したものの、カルトの共同生活で受けたマインドコントロールと現実との揺らぎの中で心が苛まれていく2週間をリアルに描いた衝撃的なサイコドラマ。新鋭ショーン・ダーキン監督(29歳)が、自分を見失いがちな中でも自分の居場所を探り求めようとする若者たちの心境を、カルト集団の被害者心理に重ねて斬新な演出で描いていく。

森に囲まれた牧場を根城に共同生活しているカルトを、一人抜け出して森の中へ走るマーサ。それを見かけた一人の男が小屋から「どこへ行く、マーシー・メイ!」と叫ぶ。マーサーがこの集団に来たとき、リーダーのパトリック(ジョン・ホークス)に「マーシー・メイの方がいい」と付けられた名前だ。
マーサは、町の公衆電話で姉ルーシー(サラ・ポールソン)に連絡をとれた。結婚したばかりの姉ルーシーと義兄テッド(ヒュー・ダンシー)夫妻は、2週間の予定でコネチカットの湖畔にあるサマーハウスで休暇を過ごしていた。そこに身を寄せたマーサを、久しぶりに会ったルーシーも、初対面のテッドも気さくに受け入れてくれた。

だが、マーサはカルトでの共同生活のことは一切言わず、ボーイフレンドと山で一緒に暮らしていたと答えておく。そしてルーシーとテッドは、マーサの辛辣なものの言い方や全裸で湖で泳いだり、夫婦の寝室に無断で入って来て二人のベッドの下で寝ようとするなど奇怪な行動に悩まされるようになる。マーサは、現実の生活とカルトでの共同生活の区別が次第につかなくなっていた。

姉ルーシー夫妻のサマーハウスに身を寄せたマーサー。だが、ルーシー(左)にも心を開けないでいる。 ©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
姉ルーシー夫妻のサマーハウスに身を寄せたマーサー。だが、ルーシー(左)にも心を開けないでいる。 ©2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

ダーキン監督は、マーサのサーマーハウスでの生活とカルトでの共同生活を回想しているシーンとのカットバックを多用して、観客をマーサの不安な心理状態へと引き込んでいく。牧歌的な共同生活にすんなり溶け込んでいったマーサが、マーシー・メイという名前で呼ばれるようになり、リーダーのパトリックとの初めてのセックスは’浄め’の儀式と教えられ、やがてフリーセックスの生活にも慣れていく。パトリックに「教師でリーダーになれる」評価されたことに応えようと努力するが、しだいにカルトの行動がエスカレートしていくことに疑念と恐れを抱いたマーサの苦しみ。

カルトに対して何かの答えを示すような、押しつけがましい作品ではない。ただ、感受性あふれる一人の若い女性が、カルトに引き込まれ、そこから苦しみもがきながら抜け出し、自己を取り戻そうとするその入り口を丁寧に描いている。そして、姉ルーシーの様に、喪失させられた自己を確立できるように、愛して助けてくれる誰かが傍にいることの必要を、ラストシーンのマーサの表情からも強く思わされる。 【遠山清一】

脚本・監督:ショーン・ダーキン 2011年/アメリカ/102分/映倫:PG12/原題:Martha Marcy May Marlene 配給:エスピーオー 2013年2月23日(土)よりシネマート新宿にてロードショー、3月2日(土)よりシネマート心斎橋ほか全国順次公開。
公式サイト:http://marcymay.jp

2011年カンヌ国際映画祭ある視点部門・若者の視点賞、サンダンス映画祭監督賞ほか受賞作品。