©2012 ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
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ナポレオン軍とウェリントン将軍率いる連合軍のトレス防御線にいたる攻防をたて糸に、連合軍とともに転進する民衆の様々な人間模様がヨコ糸のようにみごとに織り込まれていく歴史絵巻のような一巻。

タイトルから勇壮な戦争映画を思い浮かべがちだが、戦闘シーンは少ない。むしろ、戦争を指揮する立場の者の栄達に腐心する姿に対し、戦争に巻き込まれながらも必死に生きる市井に置かれた人々の心情を慈しむかのような眼差しで描いていく。

1870年9月27日、ポルトガル・プサコの戦場。ポルトガルとの連合軍を指揮するイギリスのウェリントン将軍(後の公爵:ジョン・マルコビッチ)は、フランス軍を撃退したものの兵力的には優位なフランス軍を深追いせず、ポルトガル内部へと撤収する。勝利した余裕か、お抱え画家レヴェック(ヴァンサン・ペレーズ)に勝利と知将としての威厳を描かせながら。

フランス軍のマッセナ元帥(メルビル・プポー)は、態勢を建て直しポルトガル内部へと進攻していく。部隊には、男装した愛人ユルサド(キアラ・マスロトヤンニ)を同行させて。

略奪、強姦、破壊の暴挙を繰り広げるフランス軍に進攻に、ポルトガルの民衆は、反発と憎しみの感情を抱きながら、戸締りをしっかり掛け食料もすべて持ち去って内陸へと避難していく。しだいにひもじさを増すフランス軍。そんな中、スイス商人レオポルド(ミッシェル・ピコリ)は、セブリーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と親せきのコジマ・ピア(イザベル・ユペール)とともにマッセナ元帥らを館に迎えてもてなす。だが、フランス軍の銃弾で娘を亡くしたセブリーヌの心中は、耐えられなくなり席を外す。

©2012 ALFAMA FILMS / FRANCE 3 CINEMA 2012
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目の前で戦死した戦友の新妻を気遣うフランシスコ軍曹(ヌヌ・ロペス)。負傷した身体で軍に戻ろうとする中尉を助けようとする館の女主人。連合軍と行動する娼婦の人を思い遣る気風の良さ。病の父親を抱えながらも金持ちとの結婚する夢を捨てない現実的な若き英国人令嬢クラシッサ(ヴィクトーリア・ゲーラ)。マリア像を掲げて警戒心を弱めたフランス軍を襲撃するアナーキーな神父と追いはぎ集団など、戦場から避難する民衆の行軍には、様々な人間ドラマが浮き上がってくる。

連合軍と避難する民衆を追うように進攻するフランス軍が、ようやくリスボンの手前トレスに着いたとき、1年も前からウェリントン将軍によって設営された80Kmにおよぶ陣営の防御線が立ちはだかった。

ミッシェル・ピコリやカトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペールなどの名優たちが、特別出演のように登場する豪華さ。このプロジェクトの企画を進めていたラウル・ルイス監督が2011年に他界し、40年来のパートナー、バレリア・サルミエントが引き継ぎ監督を務めた。ルイス監督の意図と作風を知り尽くしているサルミエント監督が、壮大な歴史絵巻に女性や孤児など戦争で虐げられ苦しむ立場の人々にフォーカスを当てて深みを醸し出している。 【遠山清一】

監督:バレリア・サルミエント 2012年/フランス=ポルトガル/フランス語、ポルトガル語、英語/152分/映倫:PG12/原題:Linhas de Wellington 英題:Lines of Wellington 配給:アルシネテラン 2013年12月28日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.alcine-terran.com/koutei/
Facebook:https://www.facebook.com/koutei.kousyaku.movie2013

2012年ベネチア国際映画祭正式出品作品。2013年ポルトガル・ゴールデン・グローブ最優秀俳優勝(ヌヌ・ロプス)・最優秀新人賞(ヴィクトーリア・ゲーラ)受賞、第86回アカデミー賞外国映画賞ポルトガル代表作品。