映画「オール・イズ・ロスト 最後の手紙」――最後までミステリアスなアドベンチャームービー
77歳のロバート・レッドフォードが、自ら主催するサンダンス国際映画祭で注目を浴びたJ・C・チャンダーを脚本・監督に迎えた全編一人芝居の海洋アドベンチャームービー。どのようなサクセススートリーを持っているのか、家族とはどのような関係だったのかという回想シーンさえ描かれない完全な一人芝居。自らの演技と遭難したヨット、救命用ボートと変容する海という状況だけで描かれる世界。役者レッドフォードに引き込まれていく人生ドラマだ。
冒頭に手紙のナレーションが流れる。
「スマトラ沖より1700海里(3150Km)
7月13日 午後4時50分
今更謝っても無駄かもしれないが、すまない。本心だ。
でも俺は頑張った。君もきっとそう思ってくれるだろう。
俺は自分自身に忠実になろうと努力した。
強い、優しい、人を愛せる、良い人間になろうとした。
でも俺にはできなかった。……」
男(an old man)の遺書を予感させる手紙の朗読の後は、「8日前」のテロップ。
ヨットでただ一人航海している男。何かが船体にぶつかった。時おり船内に流れ込んでくる波。デッキに上がると漂流している貨物コンテナの角が船体に穴をあけた。男は冷静にヨットの状況を確かめる。船体の破損個所を応急処置し、船内の水を掻い出す。だが、無線電話は海水を被って故障した。遭難をどこにも伝えることができない。
4日目。嵐に遭遇しヨットのマストが折れ、沈没していく。最小限の装備を救命ヨットに移して続く漂流。この数日間の生き抜くための知恵と努力は、観ているものを先の見えない緊張感へと引き入れていく。そして、自らの心と向き合い、遺書を書いて瓶に入れて海面に流すan old man。
だが、この作品のドラマの真髄は、そこから始まりミステリアスなラストシーンへと展開していく。ラストシーンの解釈は、観る人によってさまざまな受け止め方に導かれていくことだろう。しかし、どのような結末を想起したとしても、人生が航海に譬えられ平凡なように見えてもアドベンチャーとして厳しい鍛錬を含んでいることの確かさを教えてくれる。主人公に役名がなく’an old man’であることを、そのように受け止めたい。 【遠山清一】
脚本・監督:J・C・チャンダー 2013年/アメリカ/106分/原題:All Is Lost 配給:ポニーキャニオン 2014年3月14日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー。
公式サイト:http://allislost.jp
Facebook:https://www.facebook.com/allislost.jp
2014年第71回ゴールデン・グローブ賞作曲賞受賞、同主演男優賞ノミネート。第66回カンヌ国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門出品作品。ニューヨーク映画批評家協会賞最優秀主演男優賞受賞作品。