ジュルジュに翻弄されるタマラ(左)、モニカ、カトリーヌ © 2013 F COMME FILM – FRANCE 2 CINEMA – SOLIVAGUS

ドキュメンタリー映画「夜と霧」(1955年)でアウシュヴィッツ収容所の実態を世界に初めて伝えたアラン・レネ監督は、フランスの漫画(バンド・デシネマ)の味付けと香りのフランス映画らしい作品を遺して逝った。軽妙洒脱な愉しみのなかに人の心の中に浮かぶ自分のための嘘と自己顕示。そんな生き方をした人のことを、なぜか忘れられない存在になっている可笑しさ、哀しさは、身近な誰かでもあるのかもしれない。

物語の大筋は、ジョルジュという男性を取り巻く3組の友人夫婦、とりわけ女性たちはジョルジュと少なからぬ関係があるようで、行動と会話に映し出される微妙な機微がなんとも洒脱でおもしろい。

イギリス、ヨークシャー郊外。開業医をしているコリン(イポリット・ジラルド)とその妻カトリーヌ(サビーヌ・アゼマ)。コリンは、友人でカリスマ的な魅力を持つ高校教師ジョルジュ・ライリーが癌で余命半年ほどであることをカトリーヌに話してしまう。

聞き出した話を胸にしまっておくようなこと出来ないカトリーヌは、ジョルジュの親友でビジネスマンのジャック(ミシェル・ヴュイエルモーズ)と妻タマラ(カロリーヌ・シオル)に早速このビッグニュース知らせる。このニュースは、さらに元妻モニカ(サンドリーヌ・キベルラン)の耳にも入る。モニカは、ジョルジュの八方美人な振る舞いに愛想をつかして農夫シメオン(アンドレ・デュソリエ)と新しい生活を始めていたのだが、なにかとジョルジュを気遣うためシメオンは内心おもしろくない。

コリンは、カトリーヌとジョルジュが恋人関係の時代があったことを知らない。良妻賢母とみられているタマラは、夫ジャックの浮気にも見て見ぬふりをしてきた。だが、ジュルジュの最期が近いことを知り、昔の思い出と共に気持ちがジュルジュに近づいていく。そこに、カトリーヌの夫婦たちと参加している素人劇団での4人芝居に1人出られなくなり、ジュルジュを代役に出演させることに成功した。しかも、ジュルジュの恋人役を務めるのはタマラだ。稽古をとおしてジュルジュとタマラは、しだいに親密になっていく。

4人芝居の上演が無事に終わり、複雑な思いの3組の夫婦。だが、ひょんなことから大変なことが発覚する。ジュルジュは、3人の女性たちそれぞれに、自分といっしょにテネリフェ島へバカンスに行こうと誘っていたのだ。しかもタマラ、カトリーヌ、モニカの3人は、それぞれ行く気のなっている。それを知った夫たちは慌てふためき右往左往させられるのだが…。

夫コリンと出演する劇のセリフ合わせをするカトリーヌ © 2013 F COMME FILM – FRANCE 2 CINEMA – SOLIVAGUS

春夏秋の季節の変わり目を車で郊外を走る実写とコミック作家ブルッチのイラストで表現し、場面の情景は舞台の書割(かきわり:風景や建物が描かれた張り物)のセット。斜線を描いたパネルを背に役者が登場人物の心の内を独白するシーンなど、すべてセリフの味わい可笑し味をとおして登場しないジュルジュの人間味が浮かんでくる演出は心憎いばかり。

原作は、英国の戯曲家アラン・エイクボーンの戯曲「お気楽な生活」(Life of Riley)。アラン・レネ監督は、作品のタイトルを「愛して飲んで歌って」に変え、ヨハン・ストラウス2世のワルツを本編に使っている。が、エンドロールでは、テノール歌手ジョルジュ・ティルのタイトル曲’Aimer, boire et chanter’が流れる。レネ監督は、ジュルジュが自分の残像であったかのように記憶を植え付けて逝った。 【遠山清一】

監督:アラン・レネ 2014年/フランス/108分/原題:Aimer, boire et chanter  配給:クレストインターナショナル 2015年2月14日(土)より岩波ホールほか全国順次公開。
公式サイト http://crest-inter.co.jp/aishite/
Facebook https://www.facebook.com/aishitenonde

2014年第64回ベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー賞(銀熊賞)・国際批評家連盟賞受賞。