2017年08月27日号 02面

 遠藤周作『沈黙』に着想を得た、米国人画家マコト・フジムラ氏の絵画作品5点の展示が、長崎市の遠藤周作文学館で、8月31日まで開催されている。8月5日はフジムラ氏と、遠藤周作に30年来師事してきた作家、加藤宗哉氏との対談が開かれた。絵画や『沈黙』の魅力とともに、昨年米国で公開されたマーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙─サイレンス」(DVD発売)、フジムラ氏の著書『沈黙と美 遠藤周作・トラウマ・踏絵文化』(晶文社)の見所が紹介された。
日本画を専門とするフジムラ氏は、日本留学時にキリスト教信仰をもったが、博物館で見た踏み絵に衝撃を受けた。踏み絵と同時代の16、17世紀の日本画、茶人利休などの美意識が「自らの原点」と言う。
加藤氏は、『沈黙と美』について、「一行たりともおろそかにできない。最上級の『沈黙』論、また日本文化論」と絶賛した。同書では『沈黙』や17世紀の美術に始まり、大江健三郎や川端康成などの小説家にも触れ、キリスト教信仰や日本人の精神性を考察する。DC2D0D3E-
加藤氏は、「文化の中でキリスト者として生きることに葛藤した点で遠藤とフジムラさんは共通する」と指摘。フジムラ氏は「私自身については、作品と信仰は切り離せないが、1990年代の現代美術界では、クリスチャンと公けに言えない雰囲気があった。教会は文化をボイコットする印象を持たれていた」と言う。「『美』という言葉すら使えなかった。日本画は素材も輝かしいものであるが、現代美術界では、あまりに美意識があると引かれてしまうことがあった」と振り返った。
「弱さ」について、自身の悩みの経験を振り返り、「過去のトラウマを乗り越えるプロセスが続いている。今回の絵画を描きながら『遠藤もそうだったのではないか』と重なった。遠藤の小説は暗くても必ず最後に小さな光、望み、思いやりを感じる。『沈黙』は皆が普遍的に直面するトラウマについて表現する言葉を作ってくれたのではないか」と話した。
「アメリカ文化は勝つ事が一番。負けることが避けられる。痛みや犠牲の流れがある日本の文化は世界にとっても大切」とも述べた。映画「沈黙」では、主人公役のアンドリュー・ガーフィールド氏が画面から退くシーンが評論家から批判されたという。「自らのステージを明け渡す。ハリウッドでは考えられないこと。50年たってようやく理解される映画なのでは」と語った。
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6日の遠藤周作文学館、8日の東京・新宿区の佐藤美術館では、『沈黙と美』刊行記念のパフォーマンスが上演された。パーカッショニストのスージー・イバラ、タップダンサーのアンドリュー・ネマー両氏とともに、フジムラ氏が踏み絵や聖餐をモチーフにした表現を実演した。パフォーマンスで踏まれた和紙は割かれて来場者に配られた。和紙には小さな種が埋め込まれていた。「踏まれたことで花が出やすくなったかもしれないし、死んでしまったかもしれない。しかし今回の種は以前のパフォーマンスで使用した種から実った種。砕かれたものがどのように美しくなるか、新たなきっかけになればと願いました」と紹介した。
今回の『沈黙』に関するフジムラ氏らの活動、関連情報は、URL silenceandbeauty.comで公開される。【高橋良知】