大槌町の共生ホーム「ねまれや」 (C)日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会センター事業団

日本に「協同労働」(ワーカーズ)という言葉はどれほど広がっているのだろう。朝日新聞「キーワード」を検索すると、「働き手が出資者になり、一人ひとりが経営も労働も担う働き方の形。日本には協同労働の組合を規定する法律がないため、形態はNPO法人など様々。ワーカーズコープやワーカーズコレクティブとも称され、イタリアなど欧州では30年以上前から実践されている。介護や教育、育児など、地域社会に必要とされる仕事を協同で起こし、地域の雇用確保の場にもなっている。」と紹介されている。東日本大震災で幾多の市町が大津波にさらわれた被災地にあって、子どもや障がい児を預かる場、高齢者が安心して暮らせる街づくり、地元の資源を生かした地域の復興などを模索し、“仕事おこし”“まちづくり”に取り組んでいるワーカーズコープ(労働者協同組合)の姿を追う。利潤追求の起業ではなく、どのような人にも居場所を見つけようとするワーカーズたち。互いに“生かされている”生き方への発想転換が明日の一日を励ましてくれるドキュメンタリー。

ひとり一人の願いと困った
ことから始まる仕事おこし

東日本大震災から7年。未曽有の大津波に見舞われた東北の町々に、支援されることに慣れない生き方を選び、「協同労働の協同組合」という働き方と仕事おこしで人と自然が共生する地域経済を創出することをめざすワーカーズコープ。大槌、気仙沼、亘理、登米にある六つの事業所をワーカーズたちを訪ねていく。

岩手県大槌町の大槌地域福祉事業所は、2012年から仕事おこしに取り組み、2016年に地域共生ホーム「ねまれや」を開所した。通所介護や学童保育(こどもデイサービス)、日中一時支援事業、お茶子サロン、菓子工房を展開し地域支え合いの拠点をめざしている。働くのは震災で大きな被害を受け職を失った人たちで、福祉に仕事は初めてという地元の人たちだ。「私みたいなちゃらちゃした者が生き残って、本当に生きててほしかった人が亡くなった…」という所長の東梅麻奈美さんは、生き残った自分がこれから地元の人たちに尽くさなくてはと思い「ねまれや」を起ち上げた。当初、役場に行ったとき「人口が減っているのに維持できるのか」と言われ、「人口は確かに減っているけれど、困っている人は減っていない」とめげずに訴え続けた。困っていることに手助けすることから仕事おこしが始まる。

宮城県気仙沼市の気仙沼地域福祉事業所は、2012年から産業最高支援事業や求職者支援事業から活動をスタートした。2015年には「被災地にこそ共生型施設を」と「すろーらいふ」を開設、障がいを持つ人とお年寄りとがいっしょに暮らしている。

かつては林業で栄えた登米の山に、自伐型林業で”まちおこし”をと立ち上がったワーカーズたち (C)日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会センター事業団

亘理町の亘理地域福祉事業所は、2012年に地元の資源を活かして地域の復興をと「産直 はま道」農園を開設。その後多機能型福祉施設「ともにはま道」として障がい者就労支援を軸に生産者の顔が見える循環型農業を展開し、高齢者から子どもたちも視野に入れた地域の福祉拠点の創出に取り組んでいる。空港で飛行機整備士だった所長の池田道明さんは、大震災後に職を失い、組合員として自らも出資して働くワーカーズの「経営者=労働者」の仕組みを体現すべく赤字経営からの脱却を組合員みんなで勉強会に取り組んでいる。

登米市の登米地域事業所「きねづかの里」は、2012年に廃園した幼稚園を活用した通所介護からスタートした。2013年に障がい者就労支援事業、放課後等デイサービスを開始。2015年には自治体から受託した生活困窮者自立相談事業所「ともまち登米」を開始し、福祉と食農の連携による“まちづくり”をめざしている。「きねづかの里」に新に仕事おこし「REBORN FOREST 登米」が始まった。かつては炭焼きを生業として栄えていた林業の地域だったが、少子高齢化と人口流出で山の手入れができなくなっていた。そこで自伐型林業で若者の仕事を起こそうと3人の組合員が林業復興に立ち上がった。だが、林業は初めての素人ばかり。地元の理解を深め協力を仰ごうと懇談会を開催したが、参加者はゼロだった…。

ワーカーズは出資者であり労働者
だから一人一票の対等な協働関係

ワーカーズコープは「協同労働の協同組合」だから、労働者でもある組合員一人ひとりが出資して経営参加している。利潤追求を本分とする企業の労使関係とは異なる。だれかの命令一下で物事が進むものではないので、何事も話し合うこと聴き合うスローなテンポで対処していくことも多々あることだろう。だが、そこには「与えられている仕事を熟す」だけではなく、共に仕事を作り出し共通理解を深めながら改善していく対等な土俵の上にいるという心地よい労苦があるのだろう。2012年に公開された前作「Workers」は東京の下町・墨田区での協同労働の営みにフォーカスが与えられていた。住んでいた町が被災し、職を失った被災者一人ひとりが助け合いながら起ち上げてきた足跡と現在を描いている本作には、そのクリエイティブな働き方がより鮮明に伝わってくる。 【遠山清一】

監督:森康行 2018年/日本/89分/ドキュメンタリー/ 配給:日本社会連帯機構  2018年10月20日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト http://workers2-movie.roukyou.gr.jp/
Facebook https://www.facebook.com/workers2

*公開初日から連続16日間の連続トークイベントを敢行*
ポレポレ東中野での公開初日10月20日(土)から11月4日(日)までの16日間連続で上映後トークイベントが行われます!
本作のプロデューサー、監督はもちろん、本作に登場したワーカーズコープの組合員、施設所長さんや現場の若手組合さんたち、協同組合に関連する方々など「協同労働の協同組合」という働き方と仕事おこしの広がりを身近に聴くことができます。
開催日付と上映回数後トークイベントの登壇者の詳細は下記URLをクリックしてください。
http://workers2-movie.roukyou.gr.jp/?p=769