映画「スパイネーション/自白」――国家機関が“スパイ”犯捏造の歴史と現在進行形の怖さ
韓国の大統領直属の捜査情報機関「韓国国家情報院」(前身はKCIA:韓国中央情報部)が、脱北者や韓国市民を北朝鮮“スパイ”として逮捕し、証拠捏造を繰り返していた40年に及ぶ冤罪の足跡を実証報道したドキュメンタリー。2018年4月、光州事件を海外メディアに発信した史実を描いた「タクシー運転手~約束は海を超えて」、9月にはソウル大生が取り調べ中に拷問死した事件を描いた「1987年 ある闘いの真実」(ともに2017年製作)など韓国民主化への市民闘争を追う作品が日本公開された。国家機関が多数の“スパイ”犯を捏造していた事実を調査報道した本作は、国家機関が報道メディアに介入・占領を追ったドキュメンタリー「共犯者たち」と同時公開上映される。この2本のドキュメンタリーはイ・ミョンボクとパク・クネ政権の時期に起きた近年の国家権力の闇に光を当てている。国家権力が民主化を扇動・操作し、“スパイ”を捏造していく現在進行形の怖さを目の当たりにする。
検挙の核心的証拠は
妹の“自白”のみ…
ユ・ガリョという脱北者の女性が、記者会見で衝撃的な証言をしている音声から本編は始まる。2013年1月、に脱北者でソウル市公務員だったユ・ウソン(2004年に脱北延世大学卒業後2007年に公務員になる)が北朝鮮のスパイ容疑で国家情報院に連行された。12年に脱北した妹のユ・ガリョも国家情報院に連行された。179日間国家情報院中央合同尋問センターに拘束され、兄ウソンが北朝鮮のスパイであると証言し、兄は裁判所に告訴された。釈放されたユ・ガリョは、「“兄さんを助けてやる、いっしょに暮らせるようにしてやる”という捜査官の言葉を信じて嘘の陳述をした」ことを弁護士と記者たちに打ち明ける。
調査報道メディア「ニュース打破」のチェ・スンホは、ユ・ガリョの証言を一つひとつ調査し、裁判に提出された“証拠”が中国も北朝鮮も偽造書類であることを突き止めていき、ユ・ウソンのスパイ容疑が国家情報院による捏造であることを裁判で反証として暴いていく。
“スパイ”捏造疑惑は、ユ・ウソンの調査取材の過程でほかにも数件浮かび上がってきた。「ニュース打破」のチェ・スンホは、ウォン・セフンが国家情報院長だった時期にスパイとされた脱北者たちが本当にスパイだったのか疑念をもち追跡調査を進めた。調査取材した結果、数人が“スパイ”として捏造された疑惑が確認できたチェ・スンホはウォン・セフン元国家情報院長に直接尋ねるが…。
ジャーナリズムの香り立つ
ドキュメンタリー映画
「ニュース打破」は、パク・ミョンバクからパク・クネ政権時代に強引に行われた報道メディア介入によって解雇されたチェ・スンホら放送記者、ディレクターたちによって起ち上げられた非営利独立メディア。その詳細な記録はドキュメンタリー映画「共犯者たち」に描かれている。本作「スパイネーション/自白」と同時上映される「共犯者たち」を観るとき、映画がジャーナリズム性を強固に表現できる表現媒体であることに引き付けられる。 【遠山清一】
監督:チェ・スンホ 2016年/韓国/106分/英題:Spy Nation 配給:東風 2018年12月1日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
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