映画「Beauty of Tradition ミャンマー民族音楽への旅」--楽譜のない口承音楽の奔放な魅力
「ビルマの楽器は?」と聞かれれば、ある年代以上なら「竪琴」と答えるかもしれない。「ミャンマーの楽器は?」と聞かれてすぐ答えられるだろうか。2013年に第1回ミャンマー祭が芝・増上寺で開催され、昨年は、ミャンマーとの外交関係60周年にあたり伝統的な民族音楽をはじめ衣・食・文化、経済を通してのリアルなミャンマー触れ合いを盛り上げていた。それでもあまり知られれいないミャンマーの文化。本作は、ミャンマーの伝統的な民族音楽を高音質録音で40日かけて100曲も収録したドキュメンタリー。伝統音楽であるため仏教的背景や王族文化、民族歌謡など楽譜のない口承音楽の奔放でふくよかな旋律に魅せられる。
ミャンマーから亡命してきた青年を雇用したのをきっかけに民族音楽に関心を持ち収録することを決意した川端監督。ミャンマーの正月にあたる4月に入国。誰にでも水を掛けて浄めると水かけ祭の洗礼を受ける。お正月シーズン、野外でのロックコンサートなど町にはいろいろな音楽が流れている。
旧首都で国内最大の都市ヤンゴン郊外。大学で音楽を教えるマウンマウンの施設スタジオ。日本からトランク5個と長いマイクスタンドケース2個に詰めて持ち込んだ録音機材を楽器の特性に合わせてセッティングしていく。
装飾を施した円形衝立に21個の太鼓がぶら下がっているサインワイン。この楽器が中心になりチェイナウン(真ちゅう製の鐘)やフネー(笛)など伝統楽器でのアンサンブルを繰り広げる。
大学で声楽を教えるシュンレアウンさんが、200年前の王女のラブソングを歌う。歌詞は書き残されてきたが、楽譜は無く口承で伝えられてきた旋律をさまざまな楽器で重ねあわせて奏でられていく。
決まった時間にスタジオに集まり、定時でその日の仕事を終えるという都市的な時間の観念は無い。ある程度遅れて来るのは織り込み済みで、疲れればその日の演奏は終わる。日常茶飯に起きる停電。どこの国でもその国の生活リズムと文化から音楽は生み出される。ミャンマーでの暮らしの中で伝道の民族音楽が紡がれる。
インド、タイ、カンボジア、ラオス、中国5か国と国境を接し、細かく数えれば135部族からなる多民族国家。8つの大部族のうちビルマ族が人口の75%を占める仏教国。その伝統音楽を体系的に記録し研究されるのはこれからのテーマなのだろう。一方で、19世紀中葉からのイギリス統治を経てカチン族やカレン族などキリスト教信奉者が多い部族もある。そのような部族の伝統音楽にキリスト教文化の香りはどのように融合されているのだろうか。ミャンマー伝統音楽の独特なリズムとメロディーを聴きながら興味と感心は広がっていく。 【遠山清一】
監督:川端 潤 2015年/日本/105分/ドキュメンタリー/英題:Beauty of Tradition-Under the sky of YANGON- 制作:プロジェクトラム、エアプレーン レーベル/配給協力:太秦 2015年6月27日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.airplanelabel.com/myanmar/movie.html
**『Beauty of Tradition』公開記念トークイベント多数開催!
★ポレポレ東中野での公開上映は6月27日(土)~7月18日(土)[21:00より上映予定。7月14日のみ休映]。トークは20~30分を予定。(23:15頃終了予定)
・6月27日(土)上映後:大石始(ライター) × 川端潤(監督)
・7月 1日(水)上映後:小沼純一(音楽評論家) × 川端潤(監督)
・7月 3日(金)上映後:万琳はるえ(撮影) × 川端潤(監督)
・7月 4日(土)上映後:井口寛(レコーディングエンジニア) × 川端潤(監督)
*7月 9日(木)上映前:ピーター・バラカン(ブロードキャスター) × 川端潤(監督)。9日のみ<上映前>にトークイベント。
・7月11日(土)上映後:ASA-CHANG(ミュージシャン) × 川端潤(監督)
・7月12日(日)上映後:井口寛(レコーディングエンジニア) × 川端潤(監督)
・7月17日(金)上映後:万琳はるえ(撮影) × 川端潤(監督)
**録音撮影中に100曲収録されたなかから2枚のCDが発売されている。
http://www.airplanelabel.com/myanmar/cd-1.html
Ⅰ.「Beauty of Tradition – ミャンマーの伝統音楽その深淵への旅」/Various Artists 2,500円 + 税
01.パッワインの独奏~コナタンジーによる演奏
02.ベインバウン~フネーがリードする、サインワイン楽団の演奏
03.ヤトーダヤー~仏教的内容の古典歌謡
04.パントゥエラー~堅琴と聴く、モン族歌謡
05.スウェドー~仏歯を描写した古典歌謡
06.人生の虚しさを詠んだテーダッ~パッタラーの独奏
07.ドーバッで演奏される民謡
08.トゥリンフリャンレッ~女性が愛を伝える古典歌謡
09.ミャンマギリ~ドウンミン、マンドリン、パルウェーの合奏
10.ナッ(精霊)、ミンピューシンを招く歌~ナッ信仰の音楽
11.ダビェーピンウン~パッタラーの独奏
12.新しい時代のサインワイン~現代的な編曲のサインワイン楽団の演奏
http://www.airplanelabel.com/myanmar/cd.html
Ⅱ.「Beauty of Tradition – ミャンマー伝統音楽の旅で見つけた仏教の旅-/カインズィンシュエ」/Various Artists 2,500円 + 税 2015年7月1日より販売開始
01.スウェドー(インストゥルメンタル)
02.トゥーマチャーナー
03.アウンジンシッパー
04.ヤトーダヤー
05.ルガバーヤンマンエーバーゼー
06.スウェドー(歌入り)
07.ゼーヤトゥ・タッバ・ミンガラー
08.テーボウンマ、バワタンタヤー
09.ヤダナー・トウンバー・チェーズーゴウン