(C)2015「きみはいい子」製作委員会
新米教師の岡野は毎日夕方まで学校にいる神田のことが気にかかる (C)2015「きみはいい子」製作委員会

児童相談所に通告された心理的・身体的児童虐待・ネグレスト被害(18歳以下)の人数が増加し続けている。痴ほうの老人や障がいをもつ児童へのいじめなど家庭や学校、施設など身近な生活の場でのコミュニケーションが機能不全化している現代社会の問題を描いている。重いテーマだが、側にいる人を大切に思い、触れ合うことから生まれる希望を指し示している作品。

小学校で4年2組を担任する新米教師・岡野匡は、何かと騒ぎを起こす子や、女子たちのいじめに遭っている子、自閉症など障がいを持つ子、父親からDVを受けてるかもしれない子などの対応に追われ学級崩壊しつつある。特別養護支援学級の先輩教師・大宮拓也は「あんまりきばんない方がいいよ」とフォローするのだが。

大宮の妻・陽子は、就学前の長男とベビーカーの長女を連れて公園で子どもたちを遊ばせながらママたちと雑談する。少し気取ったママたちは苦手だが、水木雅美とあやね母子とは気兼ねなく話せて、自宅にも誘う。ある日、陽子の家で子どもたちが遊んでいるとき、スポンジボールが雅美に当たり、泣きじゃくり謝るあやね。陽子は、無理矢理あやねを連れ帰ろうとする雅美をハグして「親からひどいことされたのよね。私もそうだった」と、わが子を虐待してしまう雅美の心の苦しみを受け止める。

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娘あやねを可愛がれないことに苦しい思いをしている雅美だが… (C)2015「きみはいい子」製作委員会

学校では飄々としている岡野だが、子どもたちの態度は相変わらず思い通りにはならない。思わず実家で苦労をぼやくと、姉の子・蓮が岡野をハグして「大丈夫。大丈夫だよ」と慰める。不思議な温もりに慰められる岡野に、蓮はいつもしてあげていることをあなたにしてあげただけと言う姉。岡野は「誰でもいいから家族に抱きしめられてくること」という宿題を出す。翌朝、子どもたちに結果を聞くとそれぞれに感想を話し始める生徒たち。だが、そこには、クラスでいじめられていた清水と義父からの虐待が懸念される神田の姿は見られない…。

親から虐待を受けていた2人の母親の登場。思わず、救いようのない“世代間伝達論”に帰結されてしまうのかと懸念したが、杞憂に終わり安堵した。虐待してしまう雅美を受け止める陽子は、自分も近所に「べっぴんさん」と言って可愛がってくれたおばあちゃんの存在に慰め励まされた心情を吐露する。傍に寄り添い、ハグし、自己受容へと育んでくれる隣り人の存在が大切な人とのコミュニケーションを回復させてくれることに気づかされる。【遠山清一】

監督:呉美保 2015年/日本/121分/映倫:G/ 配給:アークエンタテインメント 2015年6月27日(土)よりテアトル新宿、丸の内TOEI、立川シネマシティほか全国ロードショー。
公式サイト http://iiko-movie.com/
Facebook https://www.facebook.com/iiko.movie

2015年第37回モスクワ国際映画祭コンペティション部門出品作品。