子どもの聖書絵物語

イエス様は、2千年前のイスラエルにおいて、止める弟子たちを制して「子どもたちを、わたしのところに来させなさい」と言われた。その一方、私たちが子どもを「児童」として発見するのは、ヨーロッパの社会においても、市民革命以降のことだと言われている。いのちのことば社は、70年の文書伝道の働きを通し、子どもを一人の人間として、一個の人格として、向き合ってきた。教会の後継者育成、ましてや人材発掘などではなく、神様の前に救われるべき魂として、子どもたちに福音宣教を続けてきた。その歴史を振り返り、これからのビジョンを分かち合う。

 

識字率の高い日本で、文書伝道に着目した宣教師のビジョンに始まるいのちのことば社の働きは、伝道用のトラクトや福音的な書籍の出版に始まるが、創業当初ことに出版物に関しては翻訳書がほとんどであった。教会の必要に即して出版されたそれら書籍の中には長く読み継がれているものが少なからずあるが、教会からの声に応じて、幼い魂の救い、養いのために出版されたのが『子どもの聖書絵物語』(ケネス・N・テイラー著、西満訳)である。天地創造からパウロの生涯までの旧新約聖書全体を、各ページに並べた美しい絵とわかりやすいことばで示すこの本は、1966年に刊行され、教会学校、クリスチャン家庭に、さらには一般書店でも広く販売されて、当時のベストセラーとなった。発売以来11万部を超え、今日に至るロングセラーとなっている。
この他にも子どもに向けた教材や書籍は、時宜に応じて出版されていったが、継続的、定期的に子どもへの伝道を企図していったのは、一見意外なことに、クリスチャン新聞であった。

らみい創刊号

「児童伝道版 らみい」発行へ

1967年に発行を開始した「週刊クリスチャン新聞」は、世の中の事象を聖書の視点でクリスチャンはどのように見ているのか、いわばクリスチャンの価値観を教会外の人たちに示していくことを発行の一つの動機としていた。初期の編集記者の中には、「クリスチャン新聞を使って伝道を」との思いもあった。そのように毎週発行されていったクリスチャン新聞だが、「より直接伝道に使えるものを」との教会の要望に応じて、週刊新聞とは違う編集形態で、74年から「福音版」を月刊で発行するようになる。それは編集者の思いにも適うものだったが、その同じ意図で、対象を絞り、より明確にした「児童伝道版」が計画された。外部から、伝道牧会、児童伝道の最前線に立つ6人の教職者を編集委員に迎えて、タブロイド版4頁の「クリスチャン新聞小学生版〈クリスマス特別号〉」が発行されたのは、75年11月30日号。その1面には、この年プロ野球でリーグ優勝をした広島カープのクリスチャン選手を子どもたちが取材した記事「チビッコ記者団のホプキンス選手インタビュー」が掲載されている。
これを機に、翌76年3月から名称を児童伝道版「らみい」として月刊で発行を開始した。その最初の号に本田弘慈氏が文章を寄せて「伝道は大人の魂だけを考えがちですが、幼い者、これから成長しようとする魂に福音が伝えられることは重要なこと」と書いている。
このタブロイド版の「らみい」は広く教会に用いられ、全国に浸透。85年には、それまでの基本モノクロ版から、完全カラー化を遂げたが、その後生活様式の移り変わりと、子どもの興味の変化に合わせ、内容、判形を刷新、2002年4月からA5判32ページのマンガ雑誌「月刊らみい」にリニューアルし、現在に至っている。

成長創刊号

教会学校の必要に応える「成長」

いのちのことば社が教会学校(CS)や児童伝道の働きのための専門の部署を置いたのは、1977年のことである。先に述べたように、子どもを対象とした書籍や絵本は少なからず出版され、教会で利用できる教材も存在してはいたものの、その多くが海外で出版されたものの翻訳であり、教会からは日本で生活している子どもたちに語るにふさわしい内容、毎週系統立って聖書を教えられるカリキュラムを持った教案、を求める声が強く寄せられるようになった。
教会からの要望に応えるため、そのプロジェクトを率いるリーダーとして立てられたのが、7年間のアメリカ留学を終えようとしていた玉井邦美氏(現 新鎌ヶ谷聖書教会牧師)であった。同年9月、玉井氏を迎えて教会教育部が設置され、翌年の78年3月に、教会学校教案誌「成長」が創刊された。わずか半年の間に、執筆者の選定、誌面のレイアウトの検討、カリキュラムの作成など、すべての課題がクリアされたのには驚かされる。「3千部が各書店に送り出された時には、みなで祈る気持ちで反応を待ちました。結果は、すぐさま2千部の追加印刷という驚くべきものでした。主の御名をあがめると同時に、主がこの教案誌を通して、日本の諸教会に新たな1ページを開いてくださったと確信させられました」と玉井氏は語っている。
79年からは、それまでも協力関係にあった「日本日曜学校助成協会」(52年設立)といのちのことば社教会教育部との組織的な合同が行われ、「成長」の発行元も「日本日曜学校助成協会」となったが、89年の組織改編に伴い、部の名称、発行元ともに現在の「CS成長センター」となった。創刊以来40年以上にわたり年4回の発行を続けているが、大枠は変わらない一方、この間に誌面は幾度もリニューアルされ洗練されていった。また、ワークブックや視覚教材などの関連教材も充実していった。
また、CS成長センターは、「成長」と関連教材を主軸としながら、「コプロ」と呼ばれる海外で安く印刷できる絵本製作に着手し、幼稚園のクリスマスプレゼントや卒園祝いに用いられる絵本を数多く出版するようになった。また聖書教育・子育て・女性といった分野の単行本を積極的に発行してきた。おもな出版に、ストーミー・オマーティアンの祈りのシリーズ(『子どもを守る30の祈り』など)がある。また、『リビングバイブル』の改訂(92年、2011年)も手がけてきた。「成長」を中心としたこれらの出版が、教会教育の分野で信頼を培ってきたと言える。
CS成長センターは出版の傍ら、子どもに福音を伝える器を整え、養成するための「CS教師セミナー」を継続して行ってきた。教会学校が縮小傾向にあるにもかかわらず、不思議なことにこのセミナーへの申し込みは2015年から増加傾向にある。ここ数年、東京、大阪の2会場で行ってきたが、19年には両会場とも200人を超える申し込みがあった。
このセミナーは、教会学校教師の学びと交わりの場であり、「成長」編集者にとっても、利用者の声を直接聞き教会学校の現場のニーズを捉えることのできる貴重な機会となっている。利用者からは、さまざまな教材を求める声が届く。最近の傾向としては、従来の「本」のかたちだけでなく、電子という形態でも求められつつある。生産性を維持しながら、子ども伝道の現場のニーズに細かく応えていくことが求められている。
「教会に子どもたちが来なくなった」と言われるようになって久しいが、現編集長の佐藤祐子氏は次のように語る。「子どもが減っても教会学校教師を続ける熱心な信徒に、『成長』は支えられている。今後も、これまで築かれてきた信頼を失うことなく、時代に合わせた変革を模索していきたい」

トンデラハウスの大冒険DVD

TVで聖書「アニメ親子劇場」

今や世界の市場を席巻する日本のアニメーション。そのアニメで聖書の世界を日本全国に届けたのが、1989年からテレビ放映されたアニメ「親子劇場」全26話である。テレビ東京をキー局に1話30分の番組が全国22局で放送されたが、ほとんどの局が夕方の4時から8時までのいわゆるゴールデンタイム。物語は10歳の少年飛鳥翔と彼のガールフレンドの大和あずさが、時空を超えて聖書の世界に入り込み、その物語を体験する。
アメリカのCBN(キリスト教放送ネットワーク)からの資金提供により製作されたが、CBNの意向は「福音番組をテレビ放送で視聴者の多い時間帯に」。しかし、日本のテレビ局の放送コードでは、宗教番組はゴールデンタイムには流せない。そこで出されたアイデアが、聖書の「お話」をアニメで描くこと。TVアニメ「まんが日本昔ばなし」のイメージだろうか。こうしてCBNの意向に沿い、放送コードもクリアして放映が実現した。

プレイズワールド

この第1作が好評だったため、この後同じコンセプトで「トンデラハウスの大冒険」「パソコントラベル探偵団」の全3作を放映、特に「トンデラ」はこの種の番組としては驚異的な視聴率10%台を記録した。
この作品コンセプトは現在のCBN制作の「スーパーブック」に踏襲され、コンピューターアニメのシリーズとしてDVD化されるとともに、今秋には新作「シーズン3」のTV放映が決定している。

 

 

 

子どもワーシップ「プレイズワールド」 賛美がキャンプ、イベントへ

1980年代に入ると、賛美の新しいスタイル「ワーシップ」として「リビングプレイズ」が教会での礼拝賛美に取り入れられていったが、同様にCSでは「プレイズワールド」が歌われるようになる。アップテンポの曲と親しみやすい歌詞は、振り付けやダンスを伴って、多くの子どもたちに広がっていった。そして90年には「さんびを中心としたはじめての子供キャンプ」と銘打った「ジョイジョイキャンプ」が、軽井沢の恵みシャレーで行われた。学校の春休みに合わせて開かれたこのキャンプは、2012年まで続けられた。

恵みシャレー軽井沢で開かれたジョイジョイキャンプ(2005年4月)

2000年には、ことば社の創立50周年企画として「ラブ・キッズ」キャンペーンを展開。賛美、ダンス、スポーツ、模擬店などの参加型1日イベント「ジョイジョイフェスティバル」を、地域の教会と協力して開催した。名古屋港に停泊中の福音宣教船ドゥロス号船上で夏休みに開かれたのを始まりに、横浜、所沢の会場で、翌年にも、名古屋、福島で行われた。
他にも、11年に始まった着ぐるみショー「マイティシープ」は、幼稚園や諸集会で子どもたちに人気を博した。聖書カードゲーム「バイブルプレイヤーズ」は、子どもから大人までが、楽しみながら聖書の世界を味わった。新しくCSを始めたい教会のためには、CSに必要なものをすべてそろえてパッケージにした「教会学校スターターキット」を開発した。
現在いのちのことば社では「こども宣教室」を設け、CS成長センターと連携しながら、子どもへの伝道に取り組んでいる。その中から教会のCSを継続的に支援する「教会学校バックアッププロジェクト」も行われている。

DVD みことばヒーロー マイティシープ

今までの子ども宣教の積み重ねを基に、今後の取り組みについて社長の岩本信一氏は次のように語っている。「私は、幼い時に聖書物語を聞き、教会学校に出席していました。キャンプで楽しい体験をたくさんしました。中・高校生の時、教会生活から離れましたが、大学時代に教会生活が復活しました。その理由は、子どもの時の体験でした。イエス様が〝子どもたちを、わたしのところに来させなさい〟と命じられています。幼い時に聖書に、教会に、そしてイエス様と出会うことが、その人の人生を幸いなものにするのです。だからこそ、子どもに福音を伝える取り組みが重要です。子どもたちに福音を伝えることは、いのちのことば社の使命の一つです。これからも、子どもをイエス様のところに連れていく働きに精一杯取り組みたいと思います」