「歌舞伎町夜回り」から見える人身取引とは 性的被害者とつながるために 「第22回NFSJカフェ」で坂本氏

性的搾取、強制労働、臓器不正摘出などの人身取引が世界中に広がってきており、日本でも身近な問題となってきた。人身取引、現代奴隷制問題に取り組むノット・フォー・セール・ジャパン(NFSJ)=山岡万里子代表=は、この問題について取り組む人を招いて話を聞いたり、関心ある参加者とお茶を飲みながら話し合う「NFSJカフェ」を不定期に行っている。10月21日にオンラインで開催された「第22回NFSJカフェ」では、過去2年以上にわたり毎週1、2回、新宿や池袋などで「夜回り」を続ける坂本新さん(特定非営利活動法人レスキュー・ハブ理事長)が「歌舞伎町夜回りの視点から~可視化されにくい人身取引(性的搾取)とその対策~」と題し講演した。【中田 朗】

夜の歌舞伎町。客引きをする若い女性の姿も

「街頭アウトリーチをしていると、夜の仕事に足を踏み入れてしまうと、その履歴により昼の仕事に戻れなくなる、夜の世界で生きていくしかない、と思い込んでいる方に出会う。自分は支援の対象ではないと、自ら支援窓口につながれない人もいる。そういう人たちのために、こちらから出ていく必要があるのではないか、と思ったのがこの活動の根底にあります」。繁華街の夜回りを始めた動機について、坂本さんはこう語る。
坂本さんは大学卒業後、民間警備会社に20年間勤務。うち10年を中南米、ロシア、中国の在外公館に駐在し、警備・安全対策・防諜業務に従事した。その海外駐在を通じて、子どもや女性の人身売買、搾取を身近に感じる経験をした。
「人生のどこかでこの問題に携わる必要があるのではないか」と漠然と考えていた坂本さんは、2013年に警備会社を退社。その後、国際NGО、人身取引被害者支援と政策提言をする国内NPОでの勤務を経て、20年にレスキュー・ハブを設立。性的搾取、人身安全等に係る困難を抱える青少年にこちらからリーチをし、水面下の被害実態を把握するとともに適切な社会資源につなげて導くこと、その過程で真に機能する官民協働体制を構築すること、そして問題に係るすべての被害者が守られる社会を実現することが目的だ。
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週1、2回の夜回りでは、繁華街を歩きながら若い女性に声をかける。ただ声をかけても関係性の構築が難しいので、マスクやクレンジングペーパー、携帯カイロに、「こんなことに困ったら相談してください」といった内容と連絡先が書かれた相談カードを付けて手渡す。「今は困っていなくても、その紙をお守り代わりに財布、定期入れに入れてもらえば、私たちの目的は一つ達成される。そういうことを繰り返すことで私たちの存在を覚えていただき、まずい状況になった時に思い出してもらえればいいかな、と」

手渡しするマスクや携帯カイロには「困った時には連絡を」と書かれた相談カードが添えてある

今の歌舞伎町は、「コロナの影響で人は少ない。それでも女性がガールズバーの看板を持って『寄っていきませんか』と声掛けをし、客引きをしている。中には十代と見える女性もいます」と話す。
以前と、コロナがまん延し始めた今年2月以降とでは状況が変わってきているとも語る。「直引き売春をする女性が増えた。直引き売春とは、お店で接客するような売春でなく、直接男性と値段交渉し、ホテルなど別の場所に行って売春すること。コロナの影響でお店が自粛し、お客が来なくなり、収入が減る。収入が減ると、生活費が払えなくなる。だから、お店に勤めている時間以外に外に出て、少しでもお金を稼ごうと直引き売春に至る。そういった人を何人か見かけた。だが、危険な状況になると誰も助けが入らないので、本人にとってはとてもリスキーです」
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夜の街にやって来る理由は、経済的困窮、親子関係の困難、ブラック企業を辞め仕事を求めて来たなど、理由は様々だ。「親子の関係が悪くなって家を飛び出し、とりあえずバイトをしようと歌舞伎町に来た。たとえば一部の女性はキャバクラ等で働き始め、彼氏ができ、同棲を始める。その中で相手からのDV被害に遭っても経済的な理由や、共依存等により、行動を起こすことができず、負のスパイラルに陥っています」

坂本新さん

しかし、坂本さんは「本人が望みさえすれば、いくらでも環境を変えられると感じた」と言う。「ある女性は21歳で、コミュニケーションもしっかり取れる。選択肢を提示できる信頼のおける大人がそばにいれば、変化が生じるのではないか、と感じるのです」
そう語る坂本さんは、クリスチャンでもある。夜の街でさまよう10、20代の女性たちに寄り添い、悩みに耳を傾ける姿は、貧しい人々、障害をもった人々、罪を犯した人々に寄り添うイエス・キリストの姿と重なる。
しかし、この働きにはどんな状況になろうも最後まで寄り添う覚悟が必要と考えている。「以前、夜の街で働く女性に話を聞き、インタビュー代として少額の謝礼を払ったが、その女性は『本当に話だけでいいのですか?』と聞いてきた。当然のことながら、そのような話が出た時にも常に強力な自制が求められます」
夜回りの最終的ゴールについては、との質問に対し「正直なところ、性的被害者がいなくなることがゴール。しかし、まだ回り始めて2年なのでまだまだ。現場をもっと掘り下げる必要があり、それによってゴールも変わってきます」と答えた。