子どもを産めるのに、産まない。その選択肢を生きることは間違いなのか。悩みながらもエッグドナーに登録した純子。 (C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

フライヤーに書かれているキャッチコピー“産みたくない。 けど、残したい”。結婚も子どもを産む気もない二人の女性が、30歳を目前にしてエッグドナー(卵子提供者)になる決心をする心情を描いている作品。

旧年12月4日の衆議院本会議で、第三者から卵子や精子の提供を受けて体外受精など生殖補助医療によって出産した場合の親子関係を定める民法の特例法(生殖補助医療法)が成立し、エッグドナーではなく出産した女性が“母”となることが法的に定められた。2003年に厚生省の審議会が生殖補助医療に関する報告書をまとめられたものの手つかずだった法案整備の一歩がようやく踏み出されたこの時期、本作は「産まなくても母となりたい」と願う女性の本音に迫り、その生き方を問いかけている。

独身主義とレズビアン
Around30の従姉妹同士

派遣で事務の仕事をしている近藤純子(寺坂光恵)は、29歳の独身主義者。少し思い悩みながらも生殖補助医療の一つエッグドナー(卵子提供者)エージェンシーの説明会を訪れる。面談室に入るとき、たまたま4歳年下の従姉妹・矢野葵(川合空)とすれ違った。面談室で女性エージェント(三坂知絵子)から代理懐胎とは異なり子どもがほしいクライアントの妻が人工受精した胚移植を自身に行って妊娠・出産するので、エッグドナーは採胚処置を海外で行うだけ。(このエージェンシーの場合は)海外渡航費用や採胚の謝礼はクライアント夫婦が負担することなどの説明を受けて、純子はエッグドナー登録にサインした。

会場を出ると玄関外で葵が待っていた。久しぶりの再会で挨拶を交わすと、葵は同棲していた相手とケンカ別れしたので、しばらく同居させてほしいと頼み込んできた。数日ならと思っていた純子に葵はとりあえず三か月と決め付ける。そして、同棲していた相手は女性で、自分はレスビアンだと純子に告白する。純子も結婚には全く関心はなく独身主義者だと告げる。互いに、年頃の女性に「結婚はまだ?」「孫の顔が見たい」など家族や周囲からの気遣いやプレッシャーを疎ましく感じている。葵のわがままな振る舞いに戸惑う純子。だが、一つのきっかけから子どもを産める女性であることや、将来どこかで自分の遺伝子を受け継いだ子どもがいることの存在感が生きていることの励ましになるのではなどとエッグドナーに登録した心情を語り合うようになった。

卵子提供の謝礼金目当てでエッグドナーに登録したという葵。自分の遺伝子を受け継いだ子どもを遺したいと思ってエッグドナーに登録した純子。しかし、子どもを産みたいと願うクライアント夫婦に選ばれなければ、卵子提供は成立しない。30歳の誕生日まで3か月しかない純子は半ばあきらめ気分。そんな純子を葵は、「選ばれるように頑張ることを、頑張ろうよ!」と励ます。クリスマスが近づくある日、純子は葵のバックからはみ出しているパスポートを見てしまった…。

エッグドナーの説明会場で従姉妹の葵(左)と再会。 (C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会

「私の自由でしょう」から女性であり
“子ども”を想うことで迫りくる生への気づき

派遣社員から就職を考え始めている純子。友達とのお茶会では、妻となり懐胎した友人の幸せそうで自信に満ちた表情や婚約したが純子らには黙っていた友人の気まずい遠慮を感じ、30歳直前という焦りのような複雑な感情が湧いてくる。葵はレズビアンであることもエッグドナーに登録していることも打ち明ける考えはない。だが、生理があるごとに女性としての性別から解放されることはない。子どもは産みたくないが、エッグドナーに選ばれて「遺伝子上の母になりたい」という共通の目標を抱いた純子と葵。それを“自由”とする二人の心情と本音は、分かるようで男性である筆者にはやはり分かりにくい。女性が子どもを産むことによって解放されるものは本当にないのだろうか。

父と母からこの地上にいま生きているという現実は、選ばれて生命を授かっていること。純子が、自分が選ばれればどこかで自分の遺伝子を繋いだ子どもが生きていてくれる。そして自分を産んでくれた母がいる。母と自分とは?。その事実を想う迫りくるものが、純子と葵に新たな生への気づきを与えていくストーリー展開が、印象深く男女の性別を超えて問いかけている。 【遠山清一】

監督・脚本:川崎僚 2018年/70分/日本/英題:wasted eggs 配給:ブライトホース・フィルム 2021年2月26日[金]よりテアトル新宿ほか全国順次公開。
公式サイト https://www.eggs-movie.com

*AWARD*
2018年:第22回タリン・ブラックナイツ映画祭コンペティション出展作品。 2019年:イタリア・アジア映画祭ノミネート。