「あなたは大切な人」を牧会指標に

「第12回首都圏宣教セミナー」(OCC首都圏宣教推進協力会主催)が5月22日、東京・千代田区神田駿河台のお茶の水クリスチャン・センター(ОCC)で開催された。テーマは「先生、牧会って何ですか?~牧師のための牧会セミナ~」。当日は松本雅弘氏(カンバーランド長老キリスト教会〔CPC〕高座教会担任牧師)が基調講演し、レスポンスでは坂野慧吉氏(浦和福音自由教会協力牧師)、豊田信行氏(ニューライフキリスト教会牧師)が応答した。司会は大嶋重徳氏(鳩ケ谷福音自由教会牧師)。

松本氏は、1987年に神学校卒業後、今日まで高座教会で奉仕。現在64歳だが、65歳になる来年3月に高座教会を退任することを表明した。「60歳を過ぎた頃から少し見える風景が変わってきた。私自身、牧会者としての最後の責任は何なのか考え、祈る中で示されたのがバトンタッチ。CPCの定年は70歳だが、今後の教会の働きを担う働き人を招き、現在奉仕している副牧師と一緒に新たな牧会体制を作るため、定年を待たずに退任を申し出た。退任後はもう一度中会に戻り、求められる教会があるならば、そこに行ってご奉仕させていただくことになる」

松本雅弘氏

このような移行期は、以前にもあった。松本氏が牧師になって7年後の94年、長年、同教会を牧会してきた生島陸伸氏が退任。「その時は、私たち若い牧師3人と18人の長老がいたが、これからどのような牧会をしていったらいいのか、問い直す作業をみんなでした。CPCの教会憲法には『牧師とは、御言葉と聖礼典に仕える者』と定義している。生島牧師退任を契機に、聖霊の助けの中で、礼拝を中心に御言葉と聖礼典に仕える教会として、新たなスタートをした」
「信仰の先輩たちの声」に耳を傾けつつ、自分にフィットした牧会を模索する中で、一冊の本が目に止まった。以前、高座教会に招いた牧師の著書だったが、その扉の裏にこう書かれていた。「松本雅弘さま、徳子さま、あなたがたは大切な人です」。その言葉を見た時に「温かいものがじわっと流れてきた」。「以来、『あなたは大切な人です』が牧会の目指すところとなった」と語った。
また、イエスが十字架上で語った「わたしは渇く」(ヨハネ19・28)を取り上げ、こう語った。「〝渇く〟を考える時、サマリヤの女を思い出す。彼女には夫が5人いたが、互いの理解、充足、満足を経験できずにいた。そんな彼女にイエス様は会い、渇きに応じられた。イエス様はすべての人の渇きを一身に受けられ、私たちに代わって渇ききってくださった。そして、もう渇かないようにと、私のところに来なさいと言ってくださる。牧会とは、牧会者自らもその水をいただきながら、人々をイエス様のところにお連れすることだ」

レスポンスで。左から大嶋、松本、坂野、豊田の各氏

「神様に愛されている、受け止められていることを自分自身が経験し、その循環の中で牧会していく。『あなたは大切な人です』という語りかけ、お取り扱いを、牧師自身がしっかり受け取っていくこと、日々の黙想の中で味わっていることが、牧会の出発点であり、いつも戻ってくる原点であると思う」と結んだ。
松本氏の基調講演を受け、坂野氏は「松本先生は、一人一人を大切に来られたんだなと感じた。人は牧会されたように牧会するとも思った。様々な葛藤を言葉にしておられ、大祭司の家族でもいろいろあったんだ、という見方をしないといけないなと思った」、豊田氏は「教会の方の『イエス様もトイレに行かれたのですか?』という質問に対し、『行ったと思うよ』という松本先生の応答が心に止まった。イエス様がどう受肉されたかを、それぞれの文脈でいかに伝えていくかも牧会だ。松本先生は、この何気ない言葉でイエス様も私たちと同じようになってくださった、受肉されたことを伝えている。僕だったら、『何言ってんねん』と茶化したかもしれない。『行ったと思う』のひと言は、松本先生なりの牧会だったのだと思った」と語った。
午後は「チーム牧会」「賜物発見」サイズ別の牧会スタイル」「牧師の四季」「牧師の引き際」「霊性と教会」と、六つの分科会を行い、その後に、松本、坂野、豊田三氏に加え、田名邊義之氏(キリスト合同・江戸川台教会牧師)、大井満氏(お茶の水聖書学院学院長)、石田敏則氏(シオン・キリスト・石岡教会牧師)も加わり、パネルディスカッションを行った。

2023年06月18日号   01面掲載記事)