(C)CENTRAL MOTION PICTURE CORPORATION 1987
町の中学校へは列車通学する幼なじみのアワン(左)とアフン。 (C)CENTRAL MOTION PICTURE CORPORATION 1987

1960年代の台湾の田園風景。田舎から都会へ仕事を求めて働きに出る若者たち。幼なじみの女性と周囲も自分も結婚する気でいた青年が、思いもかけずに失恋の経験をする。仲良しの幼なじみから、恋人へ、そして結婚へと自然の流れのように思い込んでいた青春の日々が、日常的な出来事を客観的に見つめる。あまり心理描写を描く展開ではなく、瑞々しい情景のなかに青春の影が雲の流れのようにあいまいな光の遮りのように描かれていく。台湾ニューシネマの名作が、みごとな色彩を蘇えらせて佳き時代のノスタルジーを味わわせてくれる。

【あらすじ】
1960年代の終わりごろ。同じ村で暮らす幼なじみのアワン(ワン・ジンウェン)とアフン(シン・シューフェン)は、鉄道で中学校へ通い、十分駅から村まで一緒に帰って来る。駅からの帰り道、夜の映画会のために大きな銀幕を張る作業が進んでいた。

アワンの父(リン・ヤン)は、炭鉱夫だが事故で足を怪我し入院している。卒業式の日、退院していた父に成績表を見せるアワン。中学校の先生には高校進学を勧められているが、父親の怪我とまだ小さい弟妹がいる家庭の状況を考えて自分から「台北へ働きに出て夜学に通う」と父親の申し出るアワン。

台北の印刷屋に勤めて2年のアワン。アフンも友人の紹介で洋装店に就職するのため台北にやって来た。アワンの父は、新品の時計を月賦で買いアフンから手渡すよう頼んでいた。アワンの友人や働く仲間たちはアワンとアフンの仲が良いことを応援している雰囲気だ。

アワンは、徴兵の知らせに応召した者の後釜で、給料のいい運送店に転職した。アフンとのデートも続いてる。アフンは、夏に帰省するアワンに家族への土産を託すため、配送のオートバイに乗せてもらい一緒に買い物に行く。だが、買い物をしている間に乗ってきたオートバイを盗まれたアワン。「やられたら、やりかえす」と言いながら別人のオートバイを盗もうとするアワン。そんなアワンの行動を初めてみたアアフンは必死にアワンを止め、二人で運送店に弁償金を支払った。アワンが帰省する日、ホームまで見送りに来たアフンだが、列車が入線する前にアワンに土産を手渡すと改札へ立ち去った。

(C)CENTRAL MOTION PICTURE CORPORATION 1987
台北市に働きに来た二人。周囲も認める仲の良さなのだが  (C)CENTRAL MOTION PICTURE CORPORATION 1987

洋服の仕立てに慣れてきたアフンは、アワンにアロハシャツを仕立てたが少し大きい。そんなころ、アワンに徴兵の知らせが届いた。兵役は2年間。運送店の主人(ライ・ドゥナン)は、昔の兵隊の苦労話をひとくさり語ると「退役したらまた戻っておいで」と餞別をくれた。入隊前に故郷に帰ったアワン。一晩父親は酔いつぶれ、祖父ひとりが爆竹を鳴らしながらアワンを見送る。

入隊してほぼ1年。アフンからよく送られてくる手紙の多さに、アワンを羨ましがる兵隊たち。だが、ほどなくパッタリとアフンからは手紙が来なくなった。やがて、アワンの弟から青天の霹靂のような手紙が届いた。

【みどころ・エピソード】
物語の展開は静かで、時系列的にも過去と現在が去来する。それは、あえて整理せず流れる雲を見つめ何かを感じとるような自然さで写し撮っていくようで美しい。都会の生活に慣らされているアワンを観て、アフンの心に何かの変化が起きているような微かな描写。ハイテクノロジーで蘇えった映像美は、心象風景の美しくも淡いうつろいを堪能させてくれる。 【遠山清一】

監督:ホウ・シャオシェン 1987年/台湾/台湾華語/110分/原題:戀戀風塵 英題:Dust in the Wind 配給:熱帯美術館 2016年5月21日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。(日本初公開は1989年11月11日)
公式サイト http://tontonrenren.jp
Facebook https://www.facebook.com/tontonrenren/

*AWARD*
1989年キネマ旬報ベスト・テン第8位・外国映画監督賞受賞作品。