互いに心を向き合いながら人生最期の旅を過ごすハンネスとキキ夫妻 (C)2014 Majestic Filmproduktion GmbH / ZDF
互いに心を向き合いながら人生最期の旅を過ごすハンネスとキキ夫妻 (C)2014 Majestic Filmproduktion GmbH / ZDF

余命宣告を受けて2年、日々萎えていく身体、残された力を振り絞り自分自身が満足できる生き方で人生の最期を閉じたいと決意する。尊厳死についての考え方は、人それぞれに幅広い。本作の主人公は、自ら選択する尊厳死を“死で終わる”人生ではなく、“自分が満足できる生き方の通過点”として捉えているのかもしれない。観るものに“いかに死ぬか”ではなく、人生を最期まで“いかに生きるか”を問いかけている。

【あらすじ】
ドイツに暮らすハンネス(フロリアン・ダーヴィト・フィッツ)とキキ(ユリア・コーシッツ)の夫婦。自宅の自転車トレーニング機器で身体を鍛えるハンネス。年に1回、4人の仲間たちとチームを組み自転車ツアーを楽しんでいる。今年の目的地ベルギーは、当番のハンネスが決めた。南フランスなど風光明媚な趣きはなく、メンバーからは少々不満な反応だ。

ツアーのメンバーは、ハンネスとキキに、ハンネスの弟フィン(フォルカー・ブルッフ)、少し夫婦関係が微妙なドミ(ヨハネス・アルマイヤー)とマライケ(ビクトリア・マイヤー)に未だ独身のミヒャエル(ユルゲン・フォーゲル)。出発の前日、ハンネスの実家に集まった。

ハンネスの母親イレーネ(ハンネローレ・エルスナー)が、みんなを温かく出迎える。家で一泊するのだが、イレーネとキキ様子がおかしい。気まずい空気が漂い、ハンネスは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で余命宣告を受けていて、ベルギー行きは尊厳死の処置を受けるためだとメンバーに告白する。キキと母イレーネには、もうじき動けなくなる前の最後のツアーを仲間たちと楽しく過ごしたいという思いを告げ説得していた。

ハンネスの告白と目的に驚く仲間たち。ツアーに参加し続けるか、選択を委ねられ戸惑いと複雑な思いで一夜を過ごす。だが、ハンネスの思いを聞いたメンバーは、結局ベルギーへのツアーに出かける。ハンネスの実家に到着した日、それぞれに課した愉快なチャレンジ。高所恐怖症のキキにはスカイダイビング、独身のミヒャエルには女装など、ベルギー到着までにチャレンジしなければならない。出発当初はぎくしゃくしていたそれぞれの思いが、ツアーが進むにつれ童心に帰り打ち解けていく。果たして、ハンネスはベルギーまでの548kmを走破できるのだろうか。

(C)2014 Majestic Filmproduktion GmbH / ZDF
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【みどころ・エピソード】
ハンネスの最後の希望を受け止めて出発した家族と仲間たち。それは、ハンネスが願っている“グッドライフ(よりよい人生)”を適えるための努力でもあるが、ハンネスからの“グッドライフ”への問いかけになって響いてくる。その心の機微が自転車ツーリングでの冒険とともにある種の爽快感が伝わってきて救われる。

一方で、夫をALSで亡くしたイレーネは「何年も看病したが、幸せだった」と尊厳死を考え直してほしい願いを持っている。妻キキは、悩み苦しみを分かち合うことなく尊厳死を決断されたことに割り切れない寂しさを抱えている。自分の思いを通すことだけが幸せな人生の最期を生きることなのだろうか。答えは一つではないのだろう。実際、尊厳死ではなく、最期まで懸命に生き続けることを選択している人たちは多くいる。最期まで与えられている生を全うする覚悟と決断。このハンネスの物語は、そのような“グッドライフ”をも否定していない問いかけが美しくも哀しい。 【遠山清一】

監督:クリスティアン・チューベルト 2014年/ドイツ/95分/映倫:PG12/原題:Hin und weg 仏題:Tour de Force/ 配給:ショウゲート 2016年5月21日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかロードショー。
公式サイト http://goodlife-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/君がくれたグッドライフ-220134945010791/

*Aword* 2015年:ドイツ映画批評家協会賞最優秀女優賞(ユリア・コーシッツ)ノミネート、ハンブルグ・フィルウフェスト2014アートシネマ賞ノミネート、ジュピター賞優秀男優賞(フロリアン・ダービト・フィッツ)受賞・最優秀女優賞(ユリア・コーシッツ)ノミネート、ロカルノ国際映画祭ピアッツァ・グランデ部門ほか多数。