映画「素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店」--愛を知らずに逝き急ぐ事勿れ
幼少時に最愛の父親を亡くしたことで、人からの愛情、人を愛する心のバランスが壊れたまま成長した大富豪の青年。ただ一人、愛すべき人と認識していた母親も亡くし、念願の“あの世へ逝く”ことを決意する。だが、邸宅内での自殺は雇人たちの目がありうまくいかない。そして、ご希望の逝き方に応えてくれる代理店を見つけたものの、奇妙な出来事が続く…。感情のバランを失っている行動は、どこかおかしく、奇想天外な成り行きに発展する。生きる目的をなくして命を粗末にするお話しから、奇想天外なラブ・コメディに展開し、自分の心の内に囚われているだけでは“愛”は芽吹かないことを教えてくれる。
【あらすじ】
オランダの貴族のファン・ザイレン家に生まれた大富豪のヤーコブ(イェルン・ファン・コーニンスブルッヘ)。だが、母親を看取ると巨額の遺産を慈善団体に寄付し、待望の自殺を決行する。だが、何をやっても邪魔が入りうまく自殺できない。ある日、車で断崖絶壁からの飛び降り自殺を考え、死に場所を探に出かけた。すると霊柩車から車いすに乗った老人を絶壁へ連れて行き、帰ってきたときは車いすは空で、そのまま走り去った。ヤーコブは、現場に行ってみると葬儀社「エリュシオン」と書かれた小さなマッチ箱が落ちていた。
翌日、葬儀社「エリュシオン」に出かけてみたヤーコブ。そこは、顧客が望む方法であの世への“旅立ち”を手助けする代理店を裏家業にしていた。死にたがっている金持ちが顧客、金持ちのデータベースでヤーコブを確認した社長のMr.ジョーンズ(ヘンリー・グッドマン)は、ヤーコブの死にたいという願望を聞き、いつ、どのように“旅立つ”かはおまかせの「サプライズ」コースを提案した。その提案を即決で契約したヤーコブ。埋葬用の棺を注文するフロアーに案内されると、同じサプライズコースを契約したという美しい女性アンネ(ジョルジナ・フェルバーン)に出会う。
サプライズコースは、一度契約すると解約不可、心変わりしても必ずあの世へ逝かせるという内容。邸宅内に家を持つ執事で庭師を勤めていたムラー(ヤン・デクレール)はじめ使用人たちを解雇し、狙撃を待つかのように庭先に腰かけるヤーコブ。だが、何も起こらない。同じサプライズコースを契約したアンネは、もう最後の旅に出かけただろうか。特別な感情ではないのだが、自分だけがまだ生きているのかと気になってきたヤーコブは、アンネに電話してみる。
【みどころ・エピソード】
何の所有欲も感動も感じられず、母親と幼少の時から面倒を見てくれているムラーのほかには感情も動かなかったヤーコブ。自分と同様に死ぬことを待望しているアンネと出会い、少し彼女の存在が気になっていく。だが、アンネの意外な正体に驚かされる。大富豪には、財産管理人の弁護士など存在は欠かせない。巨額の遺産をポンと寄付してしまうヤーコブにハラハラしても当然なのだが、そこからやっかいな出来事が持ち上がる。サプライズコースは、死に方だけでなくいろいろとドタバタを引き起こしていく展開は、何とも愉快。
ヤーコブのお金に糸目をつけないカーコレクションが、なんともみごと。ACコブラ 427、ジャガー Eタイプ、ジャガー Fタイプ、ファセル・ヴェガ HK500などのスポーツカーのほか庭仕事にムラーはシトロエン・メアリを使い、ヤーコブが町へお出かけするのはポルシェ 356 スピードスターなど豪華そのもので見ているだけでも愉しい。以外なのは、大邸宅に案内されたアンネが車の知識に豊富で、しかもスピード狂なこと。コレクションの一台ジャガー Fタイプにヤーコブを乗せてドリフトに興じるシーンはなんともチャーミング。そのみごとなドライヴィング・テクニックでサプライズを実行する追手を逃れるカーチェスは、みどころとしてもカッコいい。 【遠山清一】
監督:マイケ・ファン・ディム 2015年/オランダ/オランダ語、英語、ヒンディー語、フランス語/105分/映倫:G/原題:De Surprise 配給:松竹 2016年5月28日(土)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式サイト http://sutekinasurprise.jp
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