映画「エルヴィス、我が心の歌」--孤高のロックスター プレスリーの孤独感が滲む
自分は、42歳で他界したエルヴィス・プレスリーの生まれ変わりと信じる男。歌声も歌い方も晩年のプレスリーにそっくり。エルヴィスに憧れ、エルヴィスを真似て生きようとする男が、必ず叶えたいと思い抱いて夢をつかむためツアーに出る。その軌跡を追いながら、他人には理解されないことの孤独感が切なく伝わってくる。
【あらすじ】
町の金型工場で働きながら、週末になるとホテルでの結婚式やライブハウスでエルヴィス・プレスリーのトリビュート・アーティストとしてステージで歌うカルロス(ジョン・マキナニー)。周囲には、自分を“エルヴィス”と呼ばせ、ステージ衣装や載っている車はもちろんプレスリーを真似ている。妻のアレハンドラ(グリセルダ・シチリアニ)を“プリシラ”と呼び、ひとり娘の名前は、“リサ・マリー”と名付けた。だが、所属している芸能事務所からのギャラは少ない。そんなカルロスに愛想をつかしたアレハンドラは、娘を連れて出て行き別居してしまう。
ある日、思いもかけぬ事故でアレハンドラが入院。軽傷の娘の面倒を見ることになったカルロス。初めはなじまない娘に、優しく接するうち次第に父親らしい感情も芽生えてきた。だが、プレスリーの享年と同じ42歳の誕生日をもうすぐ迎えるカルロスには、なんとしても叶えたい夢があった。金払いの悪い芸能事務所とはトラブルが生じていたが、娘にはツアーに行くと言って空港へ向かう。カルロスが思慕し人生を捧げて歌ってきたプレスリーの聖地“グレイスランド”めざしてアメリカへと飛び発つ。
【みどころ・エピソード】
なんといってもオープニングロールで歌う“See See Rider”から、ジョン・マキナニーの上手さに強く引き込まれていく。かなりお腹の出た体形なのだが、歌を聞くと自然に身体がリズムをとってしまうプレスリーのハートそのままが乗ってくる。ジョン・マキナニーは、大学で建築学を講じる教授だが、実際にプレスリーのトリビュート・アーティストとして“エルヴィス・ビバ”(訳:エルヴィスは生きている)のユニットでヴォーカルを務めている。本作では、“Burning Love”“Suspicious mind”“Always on my mind”“Hawaiian Wedding Song”などをストーリー展開に合わせて挿入されていて、それだけでも見応え、聴き応えがある。
プレスリーは、クリスチャンの両親とともに幼い時から教会音楽に親しみ、白人音楽と黒人音楽を融合したロックンロールの先駆者として地位を築いたアーティスト。ゴスペルをアレンジした4枚のアルバムは、ゴールデンレコードを獲得している。妻とは離婚し、スタートしては孤独な匂いが漂う人生だったが、愛と自由を歌うロックンロールとゴスペルは、聴く人々にいまも音楽の楽しさと希望を与えている。そんなエルヴィスの人生が与え続けている夢や、プレスリーが信じた神への愛も描いてほしかった。カルロスが選択したラストのシークエンスは、観る人によって多様な解釈がなされるのだろうが少し衝撃的だった。 【遠山清一】
監督:アルマンド・ボー 2012年/アルゼンチン/スペイン語・英語/91分/原題:El Ultimo Elvis 英題:The Last Elvis 配給:パイオニア映画シネマデスク 2016年5月28日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。
公式サイト http://www.pioniwa.com/elvis/
Facebook https://www.facebook.com/エルヴィス我が心の歌-447141965496848/
*Awards*
2012年:第7回アルゼンチン・アカデミー賞主演男優賞・美術賞・メイキャップ&ヘア賞・撮影賞・オリジナル音楽賞・録音賞受賞。第60回セバスチャン国際映画祭ホライズンズ・ラティーノ部門最優秀作品賞受賞。第8回チューリッヒ映画祭最優秀初監督賞受賞。 2013年:第17回ソフィア国際映画祭審査員特別賞・ヤング審査委員賞受賞。リェイダ・ラテンアメリカ映画祭観客賞受賞。第63回アルゼンチン批評家連盟賞新人男優賞・オリジナル脚本賞・美術賞・音楽賞受賞作品。