Movie:「ニッポンの嘘 -報道写真家 福島菊次郎90歳-」--“いっしょに腐りたくない”気概に生きた半生
写真は、人の目に晒(さら)すことでメッセージになり、衝撃を生み、観た者の心を動かす。晒される個人や組織などと撮る者の間には研ぎ澄まされた緊張の関係が生じる。敗戦直後のヒロシマ被爆者家族を追い、政治と軍事産業、公害列島日本の姿などを取り続けてきたフォトジャーナリスト福島菊次郎。’ニッポンの嘘’をさらけ出してきたその視点が、90歳になるいまもシャッターを切り続ける、生きた言葉で表現されていく。
2011年3月15日に満90歳の誕生日を迎えた福島菊次郎を、2009年から密着取材したドキュメンタリー。一般マスコミやコマーシャリズムに迎合することなく、独自の視点で’報道写真’を取り続けてきた。したがって彼の名前は、「知る人ぞ知る」世界に刻まれているのかもしれない。
この作品でも、ライフワークであり報道写真家のスタートとなったヒロシマ原爆の被災者の困窮に追いやられていく生活を10年間取り続けた『ピカドン ある原爆被災者の記録』の成り立ちは丁寧に描かれている。アマチュア時代から人間と命に向けられていた視点は、農民の生活権を奪う三里塚闘争へ、70年安保や自衛隊と大企業のつながりへ、公害と福祉の問題へと向けられていく。
時には、自分の考えや主張を隠したり騙してでも潜入取材して公表する報道姿勢。作品のキャッチコピーにも使われているが、「問題自体が法を犯したものであれば、報道カメラマンは法を犯してもかまわない」と後進の若者たちにも講じる。生活、いのち、自由が脅かされつつある隠された動きを、’中立’という美名のもとに事実を探らない、伝えないという道は明らかに退けてきた。そして、東日本大震災と福島原発事故の東北へと報道取材の足を踏み出していく。
各地で「写真で見る戦争責任展」を開催してきたことでも知られる。原点ともいえるヒロシマの被爆者として被写体になった中村杉松さんは、自らを晒すことで「俺の仇を取ってくれ」と福島菊次郎に自分の生きる姿を委ねた。その思いを引き受けた福島菊次郎は、都合の悪いことを隠し、見せまいとする政治の姿にはおもねらず、「いっしょに腐りたくない」と、伝えるべき事実を取り続ける。二人の響き合う想いと言葉が、平和への希望を謳う8月にしっかりと届いてほしい。 【遠山清一】
監督:長谷川三郎 2012年/日本/114分 配給:ビターズ・エンド 2012年8月4日(土)より銀座シネパトス、新宿K’s cinema、広島八丁座ほか全国順次ロードショー。