2017年7月9日号8面

今年4月から、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)事務局長に就任した木内真理子さん。開発援助分野での経験も豊富だ。シンポジウム(3面参照)などで、颯爽と語る様子もあれば、スタッフたちと友人のように語り合う等身大の姿もある。木内さんの歩みを聞くとともに、キリスト教精神に基づいて世界の子どもたちの支援をするWVJの働きと今後、世界の現状、教会との協力関係などについて聞いた。【高橋良知】
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写真=東京・中野区のWVJ事務所で

国際開発の現場で長年従事
WVJで、信仰と仕事の統合学ぶ

「途上国の人々と一緒に働く仕事をしたい」。そのような思いをもった学生時代、街ではアフリカ飢餓支援のために米国のポップスターたちが歌った“We are the World”が流れていた。

 青山学院大学国際政治経済学部を卒業後、 ODA(政府開発援助)に関わる仕事に従事し、インドネシアでの駐在をはさみ、ケニア、フィリピンなどに駐在。英国の大学院では開発社会政策学、開発経済学の修士号を取得した。子育て時期は、東京大学でサステイナビリティ・サイエンスの研究教育拠点形成に従事した。

 子どもが小学校に上がると、「途上国の人々の顔が見える仕事がしたい」と国際NGOへの転職を考え始めた。「ODAは、道路や鉄道敷設、ダム、学校建設などを通じた国造り。ダイナミックで面白い仕事だった。しかし普通の暮らしをしている人たちの生活がどのように変わったのか、もっと間近で見たい」と思ったからだ。

 関心をもったのは、開発援助の現場で評判が高かったWVJだった。WVJがキリスト教を基盤とした働きであることにも気づいた。「今思うと、しかるべき時に門が開かれたのだなと思います」

 3代続くクリスチャン家庭で育ち、青山学院中高、大学と進み、聖書、祈り、礼拝は身近にあった。だが高校時代は「ほかの宗教を学んでから信仰を考えるべきではないか」と疑問を感じたこともあった。しかし「ふとしたときに、神様に祈り、聖書を開いている自分に気付き」、受け入れていった。

 WVJで働いて気付かされたことは2つあった。1つ目は、仕事と信仰の統合だ。「今までは、仕事は仕事、信仰は信仰と分けていた。しかしWVJでは、毎日デボーションがあり、基本理念にクリスチャンであることを掲げる。キリストに倣うとはどういうことか、神様が一人ひとりを大切にするとはどういうことか、たえず原点回帰する姿に驚きました」

 2つ目は、2011年の東日本大震災緊急復興支援の担当部長となった時のことだった。「WVJにとって、国内での大規模支援は初めてで、手さぐりだった。こうすればうまくいくと思った計画が、ことごとくうまくいかなかった」と振り返る。「今までは、自分でやれば、どうにかなると思っていたが、自分でやってもどうにもならないことばかり。しかし、どうにもならないことに、想定したものよりも良い何かが働く。神様の計画はすごい、と思いました」

 緊急復興支援が落ち着いたころ、「事務局長にならないか」という声がかかった。ためらいはあった。「前事務局長の片山信彦(現・常務執行役員)は、NGO界のレジェンド。WVJを担う重圧を感じました」。 かなりの時間を置いて納得したことは、「私が、できる、できないの問題ではない」ということ。「WVJのリーダーは、WVJの行く方向を祈ることが役目。やるべきことをやりながら祈ることが大切でした」

 「『ニーバーの祈り』にあるように、変えるべきもの、と変えてはならないものをどう判断するかが大きなテーマ。」「貧困層の子どもも、大統領も、同じ人として神に大事にされている。基本理念にある『私たちはすべての人を価値あるものとします』という価値感は大切にしていきたい」と語った。

 スタッフについては、数年前、「皆が成長すること」を目標に、「成長と貢献」のキーワードで評価する制度を導入。「成果だけではなく、問題意識やその解決方法やアプローチもみる。『ロールモデル』として受容力、責任感、情熱、ワークライフバランスなど、人間的な部分もみようとしています」

 座右の銘として掲げているのは、「我は一人の僕なり。為すべきことを為したるのみ」。尊敬する先輩から贈られた言葉で、長崎で被爆者治療をした永井隆の墓にある言葉だ。後にルカ17章10節の言葉だと知った。

教会、NGOは共に
苦しむ人の最前線にいたい

「社会には様々な背景、考えを持つ人がいる。人々の思いを形にして、どう途上国と日本をつなぐか。大切なことはまず聞くことだと思う」と言う。「途上国の子どもたちからも、日本の人からも、両方のニーズに応える働きを少しずつ広げていきたい。自分と違う考えを受け止める努力をして理解する。そこから新しいことが始まると思います」。また「多くの課題について、WVJだけでは応えられない。様々なNGO、企業、行政などと協力し、課題について得意分野を持つ団体とつなぐことでも、全体としてニーズに応えることになる」と述べた。

 世界はどのような状況にあるだろうか。「最近NGOの会合でテーマになることは、『多様性が大事』ということ。それは多様性と逆の方向、排他性、内向きへの危機感があるからではないか。一瞬で問題を解決できる『ミラクルアンサー』はない。やるべきことをそれぞれ地道に、きっちりやることが大切ではないでしょうか」と話した。

 国内での災害支援活動などが後押しとなって、教会とのパートナー関係も進めている。「災害など困ったことがあるとき、教会やNGOこそ最前線にいたい。地域教会は、それぞれの地域コミュニティーとつながっている。教会が外へ向かう働きをするときに、WVJを覚えてもらうとうれしい。緊急時に自己紹介をしていては遅い。平時から、顔と顔を知り合う関係になりたいと思います」