ベン・ジョンソン(手前)を助けるオックスフィード伯 ©2011 Columbia Pictures Industries, Inc. and Beverly Blvd LLC All Rights Reserved
ベン・ジョンソン(手前)を助けるオックスフィード伯 ©2011 Columbia Pictures Industries, Inc. and Beverly Blvd LLC All Rights Reserved

多くの人が目にしているストラトフォード・アポン・エイヴォン出身の劇作家ウィリアム・シェイクスピア(1564―1616年)の肖像。だがそれとは別人が実在し、戯曲や詩を創作していたという説に立ち、’もうひとりのシェイクスピア’として第17代オックスフォード伯爵エドワード・ド・ヴィア(1550―1604年)の生い立ちを描いていく。女王のエリザベス?世との関わり、養父でもある宰相ウィリアム・セシル卿との確執など王朝貴族社会での複雑な人間関係も絡みサスペンスフルに描かれていく。オックスフォード伯がほんとうのシェイクスピアであったら、シェクスピア劇の悲劇性も喜劇的な哀しさとともに味わい深いものへと誘わってくれる劇映画。

冒頭は現代の劇場のシーン。舞台に立つ案内人(デレク・ジャコビ)が、シェイクスピアの存在の謎を語り、’もうひとりのシェイクスピア’劇の幕が開く。

劇作家ベン・ジョンソン(セバスチャン・アルメストロ)の戯曲を主演する役者のシェイクスピア(レイフ・スポール)。宰相ウィリアム・セシル(デヴィッド・シューリス)と息子ロバート(エドワード・ホッグ)の政治を風刺する内容に観客の民衆は拍手喝采。だが、セシル卿の兵士らが上演を止めに入り、逮捕されないよう役者も民衆も逃げ惑う。観客に紛れて観劇していたオックスフォード伯爵エドワード(リス・エヴァンス)は、この一部始終を見て民衆を熱狂させる演劇の力をセシル卿が恐れるのを実感する。

オックスフォード伯は、劇作家ベン・ジョンソンを邸に呼び寄せ、自作の戯曲「ヘンリー5世」をジョンソンの作品として上演するよう依頼する。いぶかりながらもローズ座で上演すると観客は拍手喝采し興奮しながら作者の登場をコールする。劇作家としてのプライドから躊躇するベン・ジョンソンを見て取り、満足に文字も書けず勘がいいだけの役者シェイクスピアが作者として名乗り出てしまう。それからもオックスフォード伯の戯曲は、シェイクスピア作として上演され、観客である民衆の支持を得ていく。

オックスフォード伯爵エドワード・ド・ヴィア ©2011 Columbia Pictures Industries, Inc. and Beverly Blvd LLC All Rights Reserved
オックスフォード伯爵エドワード・ド・ヴィア ©2011 Columbia Pictures Industries, Inc. and Beverly Blvd LLC All Rights Reserved

一方、オックスフォード伯の盟友エセックス伯とサウサンプトン伯(ゼイヴィア・アミュエル)は、セシル卿父子のエリザベス女王の王位継承にかかわる陰謀を察知しオックスフォード伯の邸に相談にやってくる。次第に政治とオックスフォード卿自身のしがらみが新たな悲劇へと引きずり込んでいく。

18世紀から学術的な論議のテーマとなっているシェイクスピア別人説には、本作のオックスフォード伯説のほかにも哲学者フランシス・ベーコン説、劇作家クリストファー・マーロウ説など諸説ある。イングランドの王朝初期からの古い貴族の家柄に生まれたエドワード・ド・ヴィア。演劇好きのエリザベスとの若い時の出会いと義父セシル卿が絡まることから起こる苦渋の顛末。演劇を「悪魔の産物」とまで嫌ったセシル卿に抗い、オックスフォード伯はなぜ書き続け、何を伝えたかったのか。そして、シェイクスピア作品が現代へ受け継がれてきた謎解き。人間の愛憎とスペクタルでサスペンスフルな展開。もうひとつのシェイクスピア演劇そのものを味あわせてくれる演出と映画美に魅せられていく。 【遠山清一】

監督:ローランド・エメリッヒ 2011年/アメリカ/129分/映倫:PG12/原題:Anonymous 配給:ファントム・フィルム 2012年12月22日(土)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
公式サイト:http://shakespeare-movie.com