思わぬ出会いと出来事から奇妙な友情と信頼が気づかれていくピエールと純子 ©2012 KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS
思わぬ出会いと出来事から奇妙な友情と信頼が気づかれていくピエールと純子 ©2012 KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

30代後半から40代に入ると子育ても中高生の多感な時期を親としてかかわりながら、夫婦として、女性として、男性として、互いにあるいは自らの在り方を見つめる年代だろうか。齢を重ね定年退職した60代後半ともなれば、自分のセカンドライフを探し求めたり、親しい愛する人を亡くした喪失感に捉えられることが多くなるころでもある。

そのような、心のなかの空洞が、沖縄の伝統酒器’カラカラ’になぞらえ、沖縄の風土と文化の風にそよぎながらいやされて、爽やかな心持ちで、見つけたかったものに気づきを与えられる作品だ。

大学での文学教授の職をリタイヤし、心のいやしを求めてカナダ・モントリールからアジアを独り旅しているピエール(ガブリエル・アルカン)。ホテルでの気功のワークショップを終え、残りの10日間を沖縄の文化に触れながら島々を訪ね歩こうと考えている。だが、那覇で美術館へ行く道に迷っていたところ、純子(工藤夕貴)と明美(富田めぐみ)の二人連れに出会った。純子は結婚して東京から移住してきた留学経験を持つアラフォー世代の主婦。沖縄の友人・明美に促されて英語でガイドしながら3人で楽しいひと時を過ごした。

翌朝、ホテル近くの公園で気功を練功していると純子が訪ねて来て、那覇の街を案内するという。街を散策し、ピエールが撮る写真の話題からピエールが泊まるホテルに戻った二人は、親密なムードの中で関係を持ってしまう。

©2012 KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS
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その日のムードの中での出来事だけに互いに思っていた。だが、その夜に純子がピエールのホテルを訪ねてきた。夫・健一(あったゆういち)からDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けている純子は、この日も夫に殴られ家出してきたという。困惑するピエールだが、放っておくわけにもいかず、仕方なく離島へ行く旅行に同行することを承諾する。ピエールにとっては、自分の心のうちにある何かわからない恐れや大きな喪失感を省みる旅であった。思わぬかかわりから、二人の心の内側にあるものが次第に顕わにされていく。

ストーリーを追えば、基地問題を抱える沖縄で、心に空虚なものを抱えた男女が奇妙なかかわりの中で互いに苦しんでいるものをさらけ出していく。どことなく重いイメージを抱きそう。だが、薩摩藩の圧政、明治から戦中・戦後の天皇教育と基地の重圧感を引きづりながらも沖縄の人々の前向きさと和みが、ガニオン監督はみごとに演出し、不思議な清涼感と静かに半歩でも足を踏み出す気持ちへと引き込んでいく。実年齢に近い役どころのガブリエル・アルカンと工藤夕貴が、コミカルな中に心情を吐露する自然な演技が味わい深く印象的で救われる。 【遠山清一】

監督:クロード・ガニオン 2012年/日本=カナダ/104分/英題:Karakara 配給:ククルビジョン、ビターズ・エンド 2013年1月12日(土)より 沖縄シネマQ先行公開、1月19日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/karakara/