初めてライブバーでセッションするサム(右)とクエンティン © 2014 Rudderless Productions LLC. All Rights Reserved.

学校やパブリックゾーンでの乱射事件の報じられない年はないのではないかと思えるようなアメリカ。大学での乱射事件で息子を亡くした父親の悲劇と強い喪失感と苦しみは、愛する者を突然失い、その心とどう向き合っていたかを突きつけられる。父親が陥った深い闇からの再生と贖罪への想いは、ラストの衝撃的な物語とともに胸に深く届いてくる。

両親は離婚したが、父親サムの養育費で大学の寄宿舎で暮らしているジョシュ(マイルズ・ハイザー)。自室で作った曲を録音しているとサムから電話がはいった。大きなビジネスがまとまり、いっしょに祝杯をあげるから授業をさぼって来いと言う。仕方なく自室を出たジョシュ。

だが、約束のカフェレストンにジョシュは来ない。待ちかねたサムが店を出ようとしたとき、テレビからジュシュの大学で乱射事件が起きているニュースが流れてきた。大学に行くと、ジュシュは死亡していた。別れた元妻エミリー(フェリシティ・ハフマン)が駆けつけてきた。ジョシュの部屋にいると、ガールフレンドのケイト・アン・ルーカス(セレーナ・ゴメス)がサムにお悔やみを言いに来たが、自分自身を保つのがせいいっぱいのケイト。

2年後。ジョシュを失った事件に向き合えないサム。瀟洒な自宅は売り払い、買った船をヨットハーバーに繋いぎ、昼間はペンキ塗りのバイトをしながら酒浸りの日々。ある日、エミリーがジュシュの作った曲を録音したCDの入った箱を持ってきた。受け取ろうとしないサムに、「ジョシュが、音楽好きなところはあなたに似た」と無理やり置いていく。 ジョシュが作った曲を聴きながら、ジョシュの心にあった想いを探りはじめるサム。ある夜、ライブバーでジョシュの曲を飛び入りで歌ってみるサム。その歌が、内気だが音楽好きのクエンティン(アントン・イェルチン)の心に響き、いっしょにバンドを組みたいと申し込まれるが、サムは固辞する。

それでも、クエンティンは諦めきれずにサムの船に行き、サムが歌うジョシュの曲に魅せられていく。父がなく、母子家庭で育ったクエンティンには、音楽で通じ合える父親世代のサムが頼もしい。サムも、息子ジョシュが作った曲だは言いそびれたままとも言えずにクエンティンといっしょに歌うことでいやされ、しだいに立ち直っていく。
サムとクエンティンたちとのバンドは、行きつけのライブバーでの定期出演が決まり評判になる。そこにジョシュのガールフレンドだったケイトがサムの前に現れた。ケイトは、サムがジョシュの曲であることを言わずにライブで演奏していること知り、サムを責める…。

乱射事件で息子ジョシュを亡くしたエミリーとサムは、墓の前で自分たちを責め、慰め合うが… © 2014 Rudderless Productions LLC. All Rights Reserved.

サムとクエンティンたちは’Rudderless’(ラダーレス)というバンド名を付ける。字幕では「舵のない船」と意訳されているが、ジョシュが作った数々の曲の思いや突然息子を失い、理解者だと思っていた父親がそうではなかった思い知らされた試練を表現しているようでもあり印象的だ。
納得するまで反省させる

父親として、愛していた人の心を追い求める深い悲しみからの再生。それは、いつ、だれにでも起こり得る。遺された数々の曲が、その手がかりであり希望になっていくこの物語は、青春と大人世代が交差する緩やかな愉しみをもった音楽映画としても傑出している。 【遠山清一】

監督:ウィリアム・H・メイシー 2014年/アメリカ/105分/映倫:G/原題:Rudderless 配給:ファントム・フィルム 2015年2月21日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://rudderless-movie.com
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