映画「500ページの夢の束」ーー自作の脚本を応募する自閉症の女性から送られる諦めない大切さ
「夢を諦めないで!」とは、よく語られる人生へのエール。だが、くじけそうな状況をしっかり踏みしめて一歩進める勇気は簡単なことではない。自分が心を開いて信頼できる人や手助けしてくれる理解者など、人との出会いがあって諦めない勇気が支えられる。自閉症を抱え、他人とのコミュニケーションが苦手な女の子が、郵送では間に合わなくなった宇宙SFドラマシリーズ“スター・トレック”の自作脚本コンテストに応募するため、カルフォルニア州オークランドから映画会社があるハリウッドを目指す。住んでいる町の様子もほとんど知らない女の子が、前途多難な1000Km近い道のりを一人旅する。心に寄り添える人と人の出会いが、夢に向かって歩む人生は決して一人ぽっちではないよと力づけてくれるロードムービーだ。
【あらすじ】
21歳になるウェンディ(ダコタ・ファニング)は、自閉症を抱える女の子。たった一人の身寄りは、結婚して幼い女の子がいる姉オードリー(アリス・イヴ)。だが、他人とのコミュニケーションが苦手なウェンディは、オークランドの福祉施設で暮らしている。ソーシャルワーカーのスコッティ(トニ・コレット)は、洗濯や着るセーターの色柄で曜日が分かるようになど自律した生活ができるよう毎日の日課を親身に指導し相談に乗ってくれる信頼できる人柄。住んでいる町の様子は、施設からアルバイト先のシナボンへ行くまでの間しか分からない。とくに交通量の多いマーケット通りは危ないので「絶対に渡ってはいけない」と必携のノートメモにも書き込んでいる。
そんなウェンディだが、長寿SFドラマシリーズ“スター・トレック”の熱狂的なファン(トレッキー)。シナボンの休憩時間には、ウェンディにトレッキーな若者たちがかけ金をつけてクイズに挑戦してくるが、TVシリーズ・映画シリーズの知識では誰にも負けない。TVニュースで映画会社パラマウントが“スター・トレック”の脚本コンテストを公募しているのを知り、規定の500ページにまとめた。プリントアウトしてスコッティの手渡して感想を求めたが、スコッティは“スター・トレック”と“スター・ウォーズ”の区別も認識できないちんぷんかんぷんな世界。
郵送で応募できる最後の日に、久しぶりに姉オードリーが施設に訪ねてきた。だが、ちょっとした感情の行き違いで機嫌を損ねたオードリーは挨拶もせずに帰宅してしまった。そのことが気に罹り応募する脚本を投函するのを失念していたことに気づいたウェンディは、パラマウントがあるハリウッドまで自分で持っていくことを決心する。早朝、施設を抜け出すウェンディの後を、チワワの愛犬ピートがついてきて離れない。仕方なく相棒にして道連れにする。「絶対渡ってはいけない」マーケット通りを勇気を出して渡り、どうにかロサンゼルス行きのバスには乗ったものの、愛犬ピートが事件を起こしためバスから降ろされてしまう。仕方なくトボトボ歩き始めたウェンディと愛犬ピートだが、道端の空き家で休憩していたカップルに財布とスマートフォンを強奪されてしまう…。
一方、出勤したスコッティは、ウェンディが施設にいないことに気づき、警察の連絡する。ロサンゼルス行きのバスのチケットを買ったことから、脚本コンテストに応募するためと理解する。オードリーにウェンディが失踪したことを連絡し、反抗期で最近は口も利かない息子サム(リヴァー・アレクサンダー)を車に乗せて一路バスの後を追うのだが…。
【見どころ・エピソード】
日本では圧倒的に“スター・ウォーズ”の人気が高いのだが、1966年~69年にTV放映されたのを皮切りに新シリーズと13本の映画が製作されている“スター・トレック”もいまだにトレッキーを増殖し続けている長寿の宇宙SFドラマシリーズ。なかでもオリジナルシリーズに登場する宇宙船USSエンタープライズのカーク船長とスポック副長、ドクター・マッコイの三人は、ウェンディが創作した作品にも関連しているようで、彼女が困難な出来事に遭遇すると彼女の心のシーンに描かれ折れそうな心を励ましてくれる。だが、ウェンディが自作の脚本を届けたい一途な想いは、優勝して映画化されたらぜひ見せたい人への夢が込められているから。たとえ“スター・トレック”を知らない人でも、安心して家族連れで楽しめる物語の構成と展開になっている。ちなみに本作の原題“Please Stand By”とは、状況が読めない時に宇宙船の乗務員に指示される言葉で「そのまま待機」の意味。だが、一人で目的達成をめざすウェンディは「そのまま待機」していても、どこからも次の指示はなされない。越えてはいけないマーケット通りを越えた勇気をウェンディは私たちに見せてくれている。 【遠山清一】
監督:ベン・リューイン 2017年/アメリカ/英語/93分/映倫:G/原題:Please Stand By 配給:キノフィルムズ、木下グループ 2018年9月7日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
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