2018年08月26日号 01面

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 北海道浦河・精神障害をかかえた地域活動拠点・べてるの家創業35年。第26回「べてるまつり」が、「安心して絶望できる人生 あはははー」をテーマに、浦河郡浦河町大通の浦河総合文化会館で開催。今年のゲストは平昌オリンピックカーリング女子代表の吉田知那美選手。吉田選手を力づけ、メダルへと導いた「べてる」で生まれたことばについて語った。

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写真=幻覚&妄想大会で

 (1面つづき)北海道の東南、襟裳岬にほど近い小さな町、浦河にある精神障害をかかえた当事者の地域活動拠点「べてるの家」。教会の旧会堂でソーシャルワーカーの向谷地生良さんと当事者たちが一緒に生活をしながら日高昆布の産地直送などの事業を始めてから、今年は35年という節目となった。毎年夏に開かれてきた「べてるまつり」は26回を数え、8月4日、「安心して絶望できる人生 あはははー」をテーマに、浦河総合文化会館を会場に開催された。地域住民や日本全国、海外からも含め、約500人が集った。

 開会にあたり町長代理の教育長・浅野浩嗣さんが、歓迎の挨拶をするなど、地域に知られ、受け入れられているだけでなく、町にとって大きな役割を担っている様子が伺えた。

 絶望から生まれたオリンピックメダル

 特別ゲストとして登壇したのは、平昌オリンピックカーリング女子代表の吉田知那美選手。べてるから生まれた「安心して絶望できる人生」ということばを座右の銘としているという。

 「7歳から始めたカーリング。妹もカーリング選手だったが、自分が強くなりオリンピック選手になることしか考えられなかったゆえに、家族を思いやれず、姉と大げんか。ついには家族崩壊となってしまった。そんな時に幼なじみの内田梓さんが、大学のゼミの先生である向谷地さんの本からのことば『安心して絶望できる人生』と書かれた絵はがきを家族にプレゼントしてくれた。そのことばに出合い、涙があふれた」

 自分のせいで家族が壊れてしまったと嘆いていた吉田選手だったが、このことばに出合って、立ち止まり、どん底で考え、周りの人の思いに気づいた。そして、絶望している自分を自分自身が受け入れられた時に人生を肯定できたのだという。絶望から安心を得、その先にあのオリンピックでの勝利があったのだという。

「幻覚&妄想」を肯定的に表彰

 べてるまつりのメインイベントは「幻覚&妄想大会」。統合失調症の症状の一つである幻覚や妄想を、肯定的に捉え、表彰してしまうという画期的な企画だ。

 グランプリだけでなく、サバイバル賞やベストファミリー賞などもあった。病の症状として、忌み嫌うのではなく、べてるでは当事者同士で「研究」することにより、自分と仲間の苦労を助けるものに変えていく。「感情の『爆発』により物を壊してしまう苦労を抱えた当事者の存在によって、仲間同士が救援にかけつけ、仲間の絆が深まり、地域のネットワークも密になった」という評が聞かれた。

 過疎の町の、小さな教会で始まった「べてる」。その名前は、旧約聖書で兄から命を狙われて逃げていたヤコブが、天へ続くはしごの夢を見、「まことに主はこの場所におられる。それなのに、私はそれを知らなかった」と名付けた「ベテル(「神の家」の意)」に由来する。

 小さな町で大げさにいえば奇跡とも思える発展を遂げた共同体「べてる」。神のおられる場所は弱さが絆(きずな)となり、苦労が宝となり、絶望から安心が生まれる。私たちの今いる教会や、家庭はそうなっているかと問いかけられたような気がした。 【宮田真実子】