11月8日号紙面:=いのちのことば社創立70周年記念特集=いのちのことば社物語 販路拡大への挑戦
販路拡大への挑戦 いのちのことば社物語 第7回
写真=一般書店向けのブランドForestBooksでは聖書周りや絵画、音楽、映画、英語、文化や歴史、時事問題など人々の関心に即して福音を届ける
一般マーケットへ福音を
書籍にしても雑誌や新聞にしても、日本で文書を通して福音を伝えるビジョンを遂行するには、初めから高いハードルがある。キリスト教書籍が街の書店で買える欧米と違い、日本では信仰書や雑誌を顧客に届けるには独自に流通・販売ルートを確保しなければならないのだ。
このため最初期には、自社で印刷した書籍やトラクトを、リヤカーを改造した「福音車」に積んで人の集まる駅前などに持って行き直売したことを、シリーズ冒頭で紹介した。やがて直営書店ライフセンターを東京、大阪、名古屋などに開店していった。また他団体によってもキリスト教専門書店が各地に開かれた。
この間、それら専門書店に新刊を配本するために、創立から7年目の1957年には卸部を設置している。
一般マーケットでキリスト教書籍の需要が極端に少ないこの国では、大手取次店はキリスト教書籍を容易に扱ってはくれないのだ。
こうしてクリスチャン向けには、全国をカバーするには至らないまでも、一応の流通・販売ルートが確保された。しかしそれだけでは福音を知らない大多数の人々に届ける道は開かれたとはいえない。
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クリスチャン向けの本や雑誌であれば、教会に向けて宣伝物を送ったり教会を訪問したりして出版情報を届けることができる。事実、商品カタログを作ってダイレクトメールで教会やクリスチャンに送ったり、車に新刊書や月刊誌を積んで各地の教会を訪問するルートセールスを実施してきた。だが、それだけではまだ、福音を知らない99パーセントの人々には届かない。
そこで営業担当者らは、各地の一般書店を一軒一軒訪ね、聖書や関連書籍を販促する書店営業に力を注いできた。一般書店でも人文書として扱ってもらえそうな本を選び、バイヤーの興味を引くようにセールスをする。重い本を抱え1日に回れるのはせいぜい数件。首尾よく注文を得られても1冊、2冊、良くて5冊といった忍耐を要する営業だ。
それでも売れ行きが良ければ追加注文が来る。業界で「聖書周り」と言われる聖書やキリスト教を理解するための入門書や辞典、ハンドブック類は一般書店でも比較的に需要が掘り起こせる。定期的に書店訪問をするうちに、信頼を得てクリスマス時期のフェアの品ぞろえを任されたり、一般の人に勧めたい本を置いてもらえるようになったり…実に地道な営業努力の積み重ねである。
しかし、そうした苦労をした末に一般書店に並んだ聖書やキリスト教書を手にしたことがきっかけで教会に行くようになり、信仰に導かれたとか、やがて献身したという証しを耳にすることもある。営業担当者はそのような「文書伝道」の醍醐味を味わうのだ。
こうした営業現場の奮闘は、編集者たちを奮起させてきた。なんとか一般書店でも扱ってもらえるような伝道文書は作れないものか|一般書店向きの別ブランドとして98年に立ち上げた「フォレストブックス」は、そんな願いが結実した例だ。同ブランドで出した絵本『たいせつなきみ』シリーズや、有名な西洋絵画のモチーフになった聖書のエピソードを解説した『巨匠が描いた聖書』、星野富弘さんの詩画集のほか、英語、映画、歴史、文化、社会問題など教会の外にいる人々に福音を伝えられる分野を活用する企画のアイデアが広がっていった。
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クリスチャン人口が依然として1パーセントに満たない中で、マーケットの拡大は、いかにしてクリスチャン以外の人々に本を買ってもらえるかの挑戦である。それは経済的な基盤を固めるだけでなく、福音を必要としている人々に届けるという文書伝道の中心的な使命に関わる。
キリスト教専門書店は、他団体からの合流もあり最盛期の80年代には直営店だけでも20店余りに及んだが、90年代以降は赤字の地方書店が次々と閉店を余儀なくされ、現在も稼働しているのは8店舗にまで縮小している。創立以来いのちのことば社は職員に対して所属教会での礼拝出席を励行してきたが、こうした状況の中で近年は「文書伝道デー」と称して各地の教会の日曜礼拝を訪れ、文書伝道の証しをする機会をいただくとともに、新刊書やお薦めの書籍などを持参して礼拝後に直売する取り組みに力を入れるようになった。編集者も対面販売の現場で人々のニーズを直に感じ、また一人ひとりの求めに応じてふさわしい本を紹介することもできる。
ネット時代には届く層が拡大
地道な営業努力、編集も意識改革
一方で、世の購買動向は急速にネット通販へとシフトしてきた。いのちのことば社が通販カタログを発行し電話で注文を受けるウイングスサービスを開始した87年には、まだリアル書店との競合が懸念されていた。
だがその後、書店の縮小、撤退と相まってインターネットの普及が進み、通販もネットの時代になった。
この現象はまた、文書伝道に新たな可能性を開くチャンスともなっている。キリスト教書店がない地方に住んでいてもネットなら注文ができる。これはさらに、従来キリスト教書店を知らなければ出会うことのなかったキリスト教書が、インターネットという誰にでも開かれたツールによってクリスチャン以外の人々にも入手できるようになったことを意味する。
編集者はこの好機を生かそうと、本のタイトルや帯のキャッチコピーを考える際に、クリスチャンでない人をも振り向かせるように工夫を凝らす。キリスト教に興味があるという人口の10パーセントを目標に福音を届けるため、社を挙げて祈り努力している。