映画「セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター」--人間救済の絶望感をいやした“地球の起源”への畏敬
人間の“欲望”“労働”“戦争”そして“虐殺”と“難民”などを見つめ、問題提起してきた写真家セバスチャン・サルガド(1944年~)。その衝撃的な映像と叙事詩的な感性は、W・ユージン・スミス賞はじめ数多くの写真集賞やフォト・ジャーナリスト賞を受賞してきた。だが、絶えることのない暴虐性と内なる光を閉ざすかのような闇を見つめ、人間の救済への絶望感の果てに見いだした“地球の起源”への希望の光。その仕事と哲学を実践の半生のドキュメンタリー。
ブラジル・アマゾンのセラ・ペラーダ金鉱。アリの大群のように夥しい人数の男たちが土砂を入れた袋を担いで露天掘りの梯子を上り下りしている。1984年には年50トンもの金を産出した。まさに、一山当てたい「欲望そのもの」の有り様を描き出している。
サルガドの息子ジュリアーノに声を掛けられたベンダース監督は、このセラ・ペラーダ金鉱の写真を撮ったセバスチャン・サルガドの半生と仕事をたどり、新たなチャレンジへのプロジェクトに参加する。
農園を経営していた父の勧めで学んだ経済学。大学生のとき、音楽家の学生だったレリアと結婚し、’69年にはフランスに留学する2人。建築学を学んでいた妻レリアが使っていたカメラが、写真家サルガドを生む。エコノミストとして高給取りだった会社を辞職しての転身…。
写真集『Niger』(’73年)は、レリアも編集の携わった。以来、アフリカの飢餓の情況を撮った『Sahel』以後、『Other Americas』(’86年)、『Workers』(’93年)、『Exodes』(’2000年)など報道写真家として撮り続けた数々のプロジェクトを追う。
戦争と虐殺、難民問題…。悲惨な状況に見つめ、サルガドの心は深く傷つき、人間に対する希望も失われていく。そして、故郷ブラジルの実家に帰ると、かつて緑豊かだった牧草地は涸れ砂漠化していた。だが、レリアのアイディアで森林再生をめざして植林を続ける。サルガドも写真のテーマを“地球の起源”とし、GENESISプロジェクトを展開する。“地球の起源”を切り撮る“光と陰”。そのダイナミックさは、「光があれ」と創造主が最初に発した畏敬の光景をも想起させる。 【遠山清一】
監督:ビム・ベンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド 2014年/フランス=ブラジル=イタリア/フランス語/110分/ドキュメンタリー/モノクロ&カラー/映倫:G/原題:Le sel de la terre、英題:THE SALT OF THE EARTH 配給:RESPECT(レスペ)、トランスフォーマー 2015年8月1日(土)よりBunkamura ル・シネマ、川崎チネチッタ、横浜ブルク13、千葉シネマほか全国順次公開。
公式サイト http://salgado-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/salgado.movie/
*Award*
2015年アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画のミネート作品。第64回ベルリン国際映画祭栄誉金熊賞受賞。第39回セザール賞ドキュメンタリー賞受賞。2014年第67回カンヌ国際映画祭ある視点特別賞受賞・エキュメニカル審査員賞受賞。第62回サンセバスチャン国際映画祭観客賞受賞作品。